食品ロス問題の理解を促進し、
食品ロスを減らし、食品ロス問題を解決する

2024/04/26
井出 留美氏(いで るみ)
食品ロスジャーナリスト井出 留美氏(いで るみ)

奈良女子大学卒業後にライオン、青年海外協力隊で活動後、日本ケロッグにて広報室長などを経験する。女子栄養大学大学院で栄養学の博士号、東京大学大学院で農学の修士号を社会人で取得する。東日本大震災での食料支援における廃棄問題に衝撃を受け、office3.11という会社を設立し、食品ロスに関する講演会や出版、執筆などの啓発活動に本格的に専念する。

「世界13億トンの食品ロスの削減」に貢献する井出留美先生より、ご本人の会社におけるミッションでもある「食品ロス問題の理解を促進し、食品ロスを減らし、食品ロス問題を解決する」に基づくご活動や、社会での食品ロス問題におけるご活躍などから、現在における食品ロス関する課題やその解決方法などをお伺いしました。

目次

  1. 食品ロスに関する専門家として活躍
  2. 食品ロスの削減方法について、食品メーカーや消費者にできること
  3. 日本における食品ロスの現状と対策
  4. 食品ロス削減推進法の成立と今後の課題について
  5. 食品ロスに関して、現在本格的に取り組んでいること
  6. 国内外における食品ロスの課題克服による理想像
  7. 『「食品ロス」をなくしたら1か月5000円の得!』について
  8. 編集後記

食品ロスに関する専門家として活躍

環境配慮の原則として、「3R」(スリーアール:Reduce、Reuse、Recycle)というものがあります。本来はリデュース(削減)が最優先事項となっており、「廃棄物を出さない」「食品ロスを出さない」ようにすることが、企業および家庭において、お金や資源をもっとも節約できます。次いでリユース(再利用)、そしてリサイクルです。しかし、最優先であるはずのリデュースが、国内でも海外でも抜け落ちることが多いように思います。

セミナー登壇中の様子
(写真提供:飯田市役所 共生・協働推進課 男女共同参画推進コーディネーター結いビズ・サポーター 田辺大様)

この理由は、1960年代高度成長期、焼却施設が次々と建設されたように「余ったら捨てればいい。燃やせばいい」と、余らせることを前提としている場合が多いからではないでしょうか。私が食品ロスを減らすための講演や啓発活動を行うなかで、聴講者から「減らすのはダメ」という意見をいただくことがあります。これは、「減らしたら経済が縮む」「余らせて捨てるほうが、経済合理性がある」という発想に由来するものです。しかし、必ずしもそうとは言えません。

講演では、「食品ロスの削減に取り組みながら経営コストも減らし、売り上げや利益率を上げている事例」をいくつか紹介しています。具体的な事例に触れることで、「食品ロスを減らしながら利幅を増やすこともできる」と、気付きを得られるような啓発活動を続けています。

日本では、マスメディアの報道も、リサイクルやリユースに偏っていると感じます。リデュースは、映像として華やかではないことも理由の一つでしょう。例えば、「大量の恵方巻が豚のエサになる」といったリサイクルにまつわる映像はインパクトがあり、実際にテレビなどではそういったニュースが取り上げられます。さらには「〇〇をすることで困った人を助けられます」という倫理的なものや、視聴者の関心を引きそうな「激安」というパワーワードが出てくるリユースも重視されることが多いです。

食品ロスに関する世界の動きとして、「食品ロス」の定義が国によって違うため、国際基準を設けるための会議がスタートしています。しかし、なかなか難しいのが実情です。「何をもって可食部(食べられる部分)とし、何をもって不可食部(食べられない部分)とするのか」など、日本のなかでも意見が食い違うことがあります。

食品ロスの課題に対して、「13億トンの食品廃棄ロスを解決する」とよく謳われています。この数字はFAO(
国連食糧農業機関)が発表したレポートから出てきたものです。しかし、2021年には、WWF(世界自然保護基金)が「世界の食品廃棄ロスは25億トン」だと発表しています。WWFの主張によると、FAOの数字には農場で廃棄されている12億トンが見過ごされており、実際は25億トンであると言うのです。

そもそも食品は、地球上のすべての人にきちんと行き渡るために必要なだけの物理的な量があります。しかし、食料がお金を払った対価として手に入るものである以上、貧しい人には行き渡らず、飢餓がなくならないのが現状です。また、ひとたび紛争などが起これば、食料が調達できなくなります。具体的にはウクライナへの侵攻によって、「ウクライナから小麦が輸入できなくなってしまった」という状況があげられます。

食品ロスの削減方法について、食品メーカーや消費者にできること

環境配慮の原則「3R」のうち、企業にとって特にコスト削減に貢献できると考えられているのは、リデュースです。食品業界では「適量を作らなければいけない」という考え方がある一方で、販売店舗側からは「欠品の禁止」や「できるだけ新しいものを納入する」という要望も存在しています。食品メーカーは販売側の決めたルールに従わなければならないので、メーカーだけで「適量製造」を実現するのは難しいです。小売り側が食品メーカーに要請している様々なルールを緩和できなければ、改善されないままでしょう。

(画像はイメージです)

食品ロスを減らす目的において、食品ロスを「見える化」することは、事業者と消費者双方にとって重要です。見える化を実現するため、食品ロスや生ごみを計測する機械が販売されています。具体的には、ホテルや飲食店の厨房で「どんな食品を、どこで、どれくらい捨ててしまったのか」がわかるものや、その損失金額を表示したり、グラフ化したりできる機械などがあげられます。

消費者側にできるのは「適量を購入して買い過ぎを防ぐ」こと、つまりリデュースです。コロナ禍を経て、世界の消費者の購買行動について明らかになった点があります。コロナ禍が始まった2020年、イギリスやアイルランドをはじめ、オーストラリアや日本では家庭の食品ロスが減少する傾向が見られました。コロナ禍の様々な規制により買い物が制限されたことで、消費者の買い過ぎが抑えられたのです。例えばイタリアでは、スーパーマーケットの店内に入るお客さんの人数を制限したり、ソーシャルディスタンシングを確保して、入店の待機列に並ばせたりしました。その結果、買い物行動が控えられ、買いすぎが防止されることで、家庭における食品ロスが削減されたのです。

私自身、消費者の一人として食品ロス削減のためには、買い物前の行動が重要だと思っています。例えば、買い物へ行く前に冷蔵庫や食品庫に保存してある食べ物をチェックすることです。余計な物を買わないよう、買い物へ出かける前に食品庫にないもの・必要なものを買い物リストとしてメモに書いて買い物へ行きます。

ミネソタ大学の調査によると、空腹時に買い物をした場合と、そうでない場合とでは、買い物金額は最大64%増えるそうです。空腹時の買い物は避けるのが無難でしょう。

ほかには、たとえ商品の欠品があっても消費者がある程度許容する姿勢を持つことも必要と考えます。コンビニエンスストアやスーパーマーケットは、他店に客がとられないように、あるいは利用客からの苦情を避けるため、売上を失わないために欠品を禁じることがあります。

日本における食品ロスの現状と対策

スーパーマーケットや小売店舗では、まずは定価で売り切ること。次に、売れ残り商品をできる限りなくせるよう「値引きするなどして売り切る」ことが大切です。B to C(消費者向けのビジネス)では、アプリを通して食品やスイーツなどを値引き販売するサービスも始まっています。ただし、売れ残りが出ないよう、需要と供給の齟齬がないよう、適量を販売することが最も重要になります。

売れ残った食品を値引きしても売り切れない場合、寄付などに充てる場合もあります。国内事例として、中国・四国地方に106店舗を構えるスーパーマーケットのハローズでは食品を寄付しています。これは「ハローズモデル」と呼ばれ、売れ残った食品を食料支援団体が直接各店舗まで取りに来るシステムです。企業側は、マンパワーをかけずに仕分け程度のコストで済むため、ハローズにおける食品廃棄率は年々下がる反面、逆に売り上げは伸びています。

廃棄される恵方巻
(写真提供:日本フードエコロジーセンター)

2020年9月に公正取引委員会が公表した大手コンビニエンスストアに関する調査によると、1店舗あたり1年間で468万円(中央値)の食料を処分しているとの結果が出ています。2019年から大手コンビニエンスストアを中心に、節分当日の恵方巻の売れ残り状況について調査してきましたが、スーパーマーケットやお寿司屋さんと比較して、コンビニエンスストアで売れ残りが多いという傾向は毎年変わりません。

スーパーマーケットやデパ地下にある食品街では、閉店時間が近づくにつれて割引率を高め、売り切りを目指します。スーパーマーケットによっては惣菜コーナーの後ろにキッチンがあり、お客さんの入店状況や販売量・在庫数などを見ながら、新たに作る量を決めています。

しかし、24時間営業のコンビニエンスストアでは閉店時間に合わせて割引することはスーパーより難しく、基本的には定価で発注した分を売り切らなくてはいけません。また、すべてのコンビニがキッチンを備えているわけではないため、「陳列棚で品切れは出さない」ようたくさん並べておくので、他の業態に比べて廃棄量が増えてしまうのです。

食品ロス削減推進法の成立と今後の課題について

2016年2月3日、フランスにおいて世界で初めて食品ロスを減らす法律が制定されました。具体的には、「売場面積400㎡以上のスーパーマーケットにおいて売れ残った食品を捨ててはいけない。寄付などの対処をとることが義務となる。場合によっては罰金などの制裁を科す」という内容です。

法律が成立したのが節分の日だったため日本でも注目され、「フランスでは法律ができたが、日本では恵方巻をたくさん捨てている」という意見がソーシャルメディアで多く見られました。

(画像はイメージです)

私が日本の食品ロス削減推進法の成立に関わった中で良いと感じるのが、消費者から農家などの生産者まで、国民全員に食品ロス削減の責任があるとしている点です。しかし、ペナルティやインセンティブがはっきりしていない点にはまだ課題が残ります。例えばイタリアでは、食品ロスを減らすことによる税制優遇がインセンティブとなっています。そのため前向きに食品ロスの減少に取り組む企業も多いです。

一方、日本では欧州ほどの動きは見られないようです。食品ロス削減推進法については、2023年12月に政府から施策パッケージ概要案が出ており、発生量だけでなく、経済損失と環境負荷の試算についても公表されるようになりました。将来的に改善につながっていくことを願います。

食品ロスに関して、現在本格的に取り組んでいること

現在は、講演会などの啓発活動に取り組んでおり、「食品ロス削減を目指し具体的に何をしたらよいか」という話を中心にお伝えしています。年々、講演会に参加する方の事業分野や専門性の幅が広がってきており、良い傾向だと感じています。多様な企業の経営幹部をはじめ、IT技術によって食品ロス削減に貢献する企業、損害保険会社や生命保険会社における研修も増えています。そのほか書籍の執筆や監修など、知識情報を後世に残していくことにも取り組んでいます。

セミナーの様子(写真提供:食品ロスジャーナリスト 井出留美氏)

環境問題にあまり関心のない方であっても、「食品ロスによってお金を損している」という話をすると、関心を向けてもらえることがあります。食品ロス自体が販売価格に影響していますし、食品ロスを含む生ごみを焼却するには多額の税金がかかるため、消費者にとっては「食品ロスによる二重の損」になるのです。

国内外における食品ロスの課題克服による理想像

国内では「食品を捨てないことが大切で、適量製造した上で売り切れを許容する」発想を取り入れるべきだと思います。現実的に「売れ残り商品ゼロ」を目指すのは難しいことです。しかし、売れ残り商品は値引販売やフードバンクへの提供で解決することもできます。日本は安全面で厳しい法制度がありますが、それも踏まえた適量の範囲で食品を製造することが重要です。

一方、世界規模で見ると、貧困や飢餓、地域紛争の解決が求められますが、これも非常に難しい問題です。資本主義的な発想を、SDGsのように「誰ひとり取り残さない」という発想に変革できれば理想的です。

『「食品ロス」をなくしたら1か月5000円の得!』について

拙著『「食品ロス」をなくしたら1か月5000円の得!』については、京都市の家庭の食品ロスが一世帯年間60,000円(処理費含む)というデータから「1か月5000円」という数字を出しています。京都市は、政令指定都市で最も家庭ごみが少ないという点で優秀です。別の都市では、もっと捨てていることになります。

コロナ禍の経験から食料を備蓄している人は多いと思うので、備蓄について、ローリングストックという方法をおすすめします。使った分だけ買い足していく方式で、常温保存できるものを備蓄しておくことです。例えば、パックご飯や魚の缶詰、レトルトカレー、レトルトのパスタソース、乾麺など、常温保存できるものを備蓄しておいて、すぐ手の届くところに置いておきます。雨風が強いなど買い物に行く環境が悪い日には、たとえばパックのご飯とレトルトのカレーで夕食にカレーライスを作り、使った分だけ次の買い物で買い足す、といった方式です。

『「食品ロス」をなくしたら1か月5000円の得!』
(写真提供:食品ロスジャーナリスト 井出留美氏)

このローリングストックによって、備蓄しているものも循環させることができ、賞味期限切れという食品ロスもなくなります。近年では、日本のどこかで毎年のように自然災害が続いており、公共の備蓄だけに依存するのはリスクがあります。自分の分は、自ら備えておくことが重要です。停電した場合には冷凍保存が使えなくなるので、できるだけ長く常温保存できるものをそろえておくことがポイントです。

編集後記

買い物の前に食品ロスについて配慮することや、食品ロスの2重の損、ローリングストック方式での備蓄方法などで、私生活が変革するほどにとても勉強になりました。さらには、食品ロスの問題改善に向けて、「どのような取り組みが必要なのか」について、明確に知ることができたことにも感銘を受けました。

ライター山村 宏

仮想通貨やフィンテック系、一般・環境系・不動産関連の分野で主に執筆活動をしています。専門紙における編集長の経験を活かし企業のオウンドメディア用の執筆も多く手掛けています。「読者に役立つ情報を編集方針に合わせて作成させていただくこと」が個人の理念です。