INNOVATION LAB
VOICE OF THE EXPERT

専門家インタビュー

SDGsの学び方入門
~「沈黙の春」から変わったこと、変わらなかったこと~

法政大学 経済学部教授

ふじた みつたか藤田 貢崇氏

物理学者。教養科目の授業として物理学や科学教育の講義、ゼミナールでは科学ジャーナリズムの講座を担当。科学誌natureの翻訳者として数多くの科学論文、啓蒙書の翻訳を行う。また、NHKラジオ「子ども科学電話相談」解答者としての顔を持ち、科学分野の幅広い疑問に答えている。膝を折って向き合うかのような回答姿勢はチビッコのみならず、大きいお友達の探究心をも魅了している。最新の訳書『ブロックで学ぶ素粒子の世界 (白揚社)』では見慣れたブロック達が素粒子論を身近に感じさせてくれる。北海道出身。
http://kenkyu-web.i.hosei.ac.jp/Profiles/27/0002605/profile.html

「SDGsが大切だ」とは聞いているが、なんだかピンとこない。そんなことはありませんか?「自分は断片的な情報を元に『分かった風』を装ってはいないだろうか?」と悶々としていたとき、ラジオから「あの人気番組」が流れてきました。科学の伝道師として小さなお友達から大学生、一般の人まで様々な手法でアウトリーチ活動を行っている藤田先生に「今私たちが知っておくべきSDGsとは何か」、「必要と言われている科学リテラシーとは具体的に何を表すのか」を伺いました。

子どもは「なぜ?」の子

科学を教え、伝える仕事をしておりますと「子供の頃から理系少年だったのですか?」とたずねられることがあります。数字にただならぬ関心があるとか、そういったタイプではありませんでした。ただ、自分の目で確認することに喜びを感じていたと思います。飼っていたメダカの卵を顕微鏡で観察したり、カナヘビを沢山捕まえて尻尾が切れるか試したことがあります。

大人になった皆さんはお忘れかもしれませんが、子供の頃は誰もが「なぜ?どうして?」と疑問を持ち、周囲の大人を質問攻めにしてきました。個人の性格には関わらず、です。なぜなら、ヒトの発達段階で通らなければならないプロセスだからです。とは言え、忙しい大人としては、全ての疑問に付き合っていられないのが現実です。

私が教育学部の理科教員養成課程にいた頃、子供が「どうして?」と聞いてきたら「教育のリソースを提供しなさい」と教わりました。疑問が生まれ、こういう風にすると分かるのかという、解決する道筋を知ることができて「わかった!」になる。これは快感ですよね。このような成功体験が知的欲求の源泉になると考えます。
もし、身近なお子さんが「なぜ? どうして?」を連発してきたら、「答えの探し方やツール」を示してあげると良いでしょう。その時も「こうやってやりなさい」ですと、すぐに次の質問が脈絡なく飛んできます。
「このページにありそう」「あの図鑑にあるかも」と、子供が自分で探せるように補助をしてあげるのです。興味が広がってきたら、図書館で「あの棚にはある?」「前に調べたことはなかった?」というやりとりも楽しいですね。

その人の中にある単語でたぐり寄せる

小学校低学年やもっと幼い子供達からの質問には、独特の緊張感があります。ときに科学の真芯を喰うような鋭さや、輝くような純粋さを見せるものがあります。ただ、回答に必要な語彙や概念が彼らの中にはまだ育っていないことが殆どです。ラジオ番組で小学2年生の子から「どうして60分で1時間なの?」と質問がありました。突然現れる60という数字に疑問を抱くのはもっともです。が、「それは約数がね…」などと答えても彼らの理解には至りません。まだ約数の概念がありませんから。割り算を習うのは3年生になってからです。

そこで私たち回答者は「お饅頭が10個あってね、みんなできれいに分けるにはどうすると良いでしょう?」など、例え話を持ち出します。これが重要なポイントです。

今回は小さな子供からの質問でしたが、基本的に相手が誰であってもスタンスは同じです。相手の中にある言葉、概念、表現を共有し、たぐり寄せるように伝える努力をすることです。ゼミの中でも「わかりやすく伝える」という訓練をしているのですが、指導する側の私にとっても訓練になっています。

教科書が書き換わる…のが当たり前と知って欲しい

さて、私は科学を専門としいてない学生さん達に、教養科目としての物理学を教える授業を受け持っています。内容は高校物理の延長のようなイメージですが、科学ニュースの解説や学生からの質問タイムなども設けて、科目の線引きに囚われない話題提供を心掛けています。高校までは「地学」の範疇だった天文(学)が、大学では「物理」になる。

「生物」で習う代謝はミクロの視点では化学反応であり、「化学」で学んだ反応式は元素のスケールでは物理の式で計算ができ、元素を作る原子の世界は量子力学で記述されて…と、科目の境界線が消えていきます。化学の現象を素粒子物理学でも説明ができる。受験科目の境界線をはみ出すところから、科学する心を再起動しましょう。

私はnatureの翻訳者でもあるため常に最新の科学論文に触れています。論文の性質上、定説を覆す、教科書が書き換わるような新説がドンドン届きます。これも学生さんたち達にはショックなようで、「これまで一生懸命覚えてきた事が無駄になってしまうのは、なんだか心が傷つく」と言う声も。イマドキの真面目でナイーブな学生達と接していて、少し気の毒に思うことがあります。

私の目からは、彼ら彼女らは「疑問を持つ」ことや「失敗をする」ことを過度に恐れているように見えるのです。「なぜ?」と思うことは、失礼でも反抗でもありません。ミスをしたり、結果が予想と異なることは、罪でも悪でもありません。むしろ楽しい発見であり、学びです。科学の発展は発見と訂正の賜物。疑問を持つことを恐れなくて大丈夫と、繰り返し伝えています。

「なぜ?」から育てる科学リテラシー

大人のかたから「自分に科学リテラシーがあるか心配です。どうすればレベルが分かりますか?」と質問されることがあります。

残念ながらTOEICスコアのように誰かが判定してくれるモノではありません。ある/なしではなく「伸び」です。一人でこっそり高めることもできます。

例えば新聞の科学欄を開いて、気になった記事を一つ選びます。2色のマーカーがあれば、知っている言葉、知らない言葉を色分けしてみましょう。ひと通り読んで色分けができたら、「知っている」と「知らない」の境界線が現れます。それが今のあなたです。

一般の新聞は、中学の教科書で習う知識を理解している前提で書かれています。ですから、高校生以上になれば、読めることになっています。読んでみて、分かる/分からないは、次の段階です。知らなかった単語を調べるもよし、気になる説明を追いかけるもよし。どちらも正しい学び方です。そして、理屈っぽく考えられるようになってくれば更によし。もちろん、トンチンカンな謎理論ではいけません。中学の教科書に照らし合わせても矛盾なく、誰が聞いても筋道立っていると理解できる理屈です。

このような読み方を続けていくと、知っている/知らない、の他に「なんだろう?」が出てきます。この疑問を調べることでさらに知識と興味の枝が伸びていきます。リテラシーが高まると疑問が増えます。いつでも質問できる状態になっているのはリテラシーが高まっている状態だと考えています。

例えば美容に関心が高い人なら、加齢現象という単語が目に止まるかもしれません。誰にでも起こるこの現象は、どうして細胞が弱るのか、代謝とは何かという風に興味の範囲を広げることができるでしょう。ウォーキングの時に見たアスファルトの色が、新品は真っ黒なのに段々と白っぽく変わる事に気付くかもしれません。一斉に鳴き始めた蝉たちの声に、どうやってタイミングを合わせているのか興味が湧くかもしれません。教科書で習ったことが実際の生活や仕事に結びつくと理解も興味も増します。このような気づきをぜひ楽しんでください。

合い言葉は「SDGsから見ると?」

私が中学生くらいの頃、世界的な環境問題と言えば酸性雨でした。酸性雨さえなくなれば解決、そのためには○○さえ減らせば…と、非常にシンプルなストーリーで語られ、共有されていました。現在、酸性雨という単語を単独で耳にする機会はほぼありません。これは、地球の環境が複雑な要素から成り立つことを人類が理解した成果とも言えます。

整理されているとはいえ、環境や生産、人権など多岐に渡る要素をカバーしているので、アイコンが17個もあります。SDGsに起点で物事を考えるとどうしても特定のアイコンに意識が集中するため、視野が狭くなりがちです。なので、あるモノやコトに対して「これはSDGsの中でコレとアレに関連がありますね」と仮置きしてみる。すると他の誰かが「こんな風にも考えられる」と、異なる意見を示すかもしれない。一つの景色をいろいろな窓から見るように、物事を多角的に見る・考えるフレームを提供しているのがSDGsのアイコンなのだと思います。

例えばレジ袋の問題を考えたとき、「SDGsから見ると?」と自分に問いかけてみてください。原料の面、廃棄処分の面、日常の利便性、その製品を作っている会社や働いている人の雇用の面…と、複数の観点から無理なく立体的に考えることができるでしょう。何度か練習をしていけば、自然とできるようになります。自分の考えや暮らしの振り返りにも有効ですよ。

科学教育とは「なぜ?」の種への水やり

日本では大人だけではなく子供達の科学離れ、理科離れが進んでいるという調査結果を耳にしたことがあります。しかし、子供の頃は誰もが「なぜ?」の種を沢山持っています。成長と共に「なぜ?」を恥ずかしいと思ったり、怖いと思ったりするのは非常に残念です。科学教育とは、「なぜ?」の種に水をあげて伸びやかに育てるようサポートすることだと思います。嬉しいことに、この種は何歳からでも育てることができます。遅すぎることはありません。

取材を終えて

これまでで1番衝撃を受けたことを伺ったところ、大学院生時代に出た宇宙膨速度が加速しているという論文とのお答えでした。「それまで信じてきた『宇宙の膨張はやがて止まり収縮に転じ、膨張と収縮を繰り返す』という学説が真っ向から否定されたのです。」と理論の大前提が崩壊という恐怖のエピソードを愉快そうにお話してくださる様子に、科学者の柔軟さを見ました。

サイエンスライター 富山佳奈利

幼少期よりジャンル不問の大量読書で蓄えた『知識の補助線』を武器に、サイエンスの意外な側面を軽やかに伝えている。趣味は博物館巡りと鳥類に噛まれること。北海道出身。鎌倉FMの理系雑学番組『理系の森』出演中(毎週土曜16:30〜 82.8MHz)