「こども食堂」の意義とSDGsを考える

2022/05/09
秋山 宏次郎氏(あきやま こうじろう)
一般社団法人 こども食堂支援機構 代表理事
政策アドバイザー
秋山 宏次郎氏(あきやま こうじろう)

SDGsオンラインフェスタ・ソーシャルイノベーションディレクター。ベストセラー書籍「こどもSDGs」監修。大手企業の社員時代から他企業や行政にさまざまな提案を行い、20以上の新規プロジェクト発起人として多くの案件を実現に導く。
一般社団法人 こども食堂支援機構 代表理事として、複数の
ソーシャルビジネスを通じて企業からの食品寄付や、食品ロスを活用して原資を集めて、全国のこども食堂に200万食以上を提供。企業版ふるさと納税の新たな活用モデル構築検討戦略会議 学識委員。プロスポーツのSDGsイベントプロデュース、大学での授業や講演、執筆活動まで幅広く活動するパラレルワーカー。
SDGsオンラインフェスタ
監修書籍「こどもSDGs」

SDGsを意識した活動のひとつとして、子どもの貧困や教育問題に関心のある方は多いのではないでしょうか。コロナ禍で新たな問題が浮き彫りになるなか、全国に約6,000カ所ある「こども食堂」と廃棄寸前の非常食を抱える企業との懸け橋となっている一般社団法人 こども食堂支援機構 代表理事の秋山氏に、主な活動内容と「こども食堂」と子どもの食の問題、SDGsとの関係についてお話を伺いました。

目次

  1. こども食堂と企業をマッチングし、食料品を無償提供
  2. こども食堂支援機構を立ち上げた経緯
  3. 子どもの食の問題と「こども食堂」について
  4. SDGsと「こども食堂」
  5. 編集後記

こども食堂と企業をマッチングし、食料品を無償提供

私は、全国のこども食堂を中心に、子どもたちの健全な育成を目指すための支援を行っています。食料品の提供が主ですが、他にもこども食堂を防災の拠点にしたいといった要望にも応え、防災用品メーカーとコラボレーションし、非常用トイレの無償提供なども行っています。また、コロナ禍で修学旅行が中止となってしまった学生たちを無償で団体旅行に招待するプロジェクトなども手掛けています。

企業が備蓄している、2~3ヶ月後に賞味期限が迫った大量の非常食。もしくは、過剰生産やラベルの印字ミスといったこのままでは売れないが、中身は従来品と同様に十分おいしく食べられるのに廃棄するしかない食品があることを、多くの企業から相談を頂きます。そこで、全国のこども食堂に「このような食料品を寄付いたしますが、希望される方はいらっしゃいますか?」と呼びかけ、希望があった食堂に提供させて頂いております。

●「リベンジ修学旅行」を敢行

「SDGsオンラインフェスタ(第5回)の扉絵」

SDGに関連するイベントの主催も行っており、参加者の方と一緒に世の中を少しでも良くするような動きを作ろうと活動しています。その一つに「SDGs提案グランプリ」があります。参加者の方が、企業や行政、国連などに対して、SDGsに関連する提案を行い、その提案に共鳴した団体が実際にその提案を実行するというものです。

初回で、ある日本の航空会社様が、テーマとして「関係人口※を増やすSDGsにも資するような提案」を募集しました。そこで、参加者であった「SDGs未来都市」愛媛県松山市長自ら、コロナ禍で修学旅行に行けなくなってしまった子どもたちを松山市に招待するという企画を提案され、企業側の賛同を経て実現しました。正式名称ではないのですが、私は「リベンジ修学旅行」などと呼んでいます。

修学旅行に参加した13名あまりの参加者は、飛行機に初めて乗ったというお子さんも多く、とても興奮して喜んでくれました。空港利用など慣れないなかでトラブルも多少ありましたが、とてもいい体験になったようです。旅行後、参加した子どもたちから、松山市と航空会社宛にお礼の手紙を書きたいから送り先を教えてほしいという嬉しい申し出があり、また機会があればぜひ実施したいと考えています。

我々の活動は、主に食料品の提供という機会が多いのですが、それがゴールとは思っていません。「子どもたちが健全に成長できるような環境」をより良くしていくことを考えたときに、食品ロス問題として世の中に余っている食料品があるということが活動の入り口として入りやすかったということです。

※関係人口とは…移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々のこと。

こども食堂支援機構を立ち上げた経緯

もともと、学生時代から新しいビジネスモデルを思いつくタイプだったので、就職先を決めるときには、面白くて大きなビジネスを実現できる可能性が高い企業を希望し、当時インターネットで大きな影響力を持っていたIT系企業を選びました。

そして入社後、新規事業提案制度において新たなビジネスモデルを提案したところ、優勝することができました。企画した事業の実現に向け、国内屈指の政治家や複数の上場企業社長や会長にも協力を申し出ていただきましたが、最終的にはその提案は実現せずに終わってしまいました。

そうしたなか、同社で防災に関する案件に関わったときに、非常食に無駄が多いことに気がつきました。東京都には、企業は社員全員の3日分の食料・水等を備蓄するという条例があります。その条例を遵守している企業は、かなりの量の非常食を備え、賞味期限が来たら買い替えて、古いものは廃棄するという実態があります。まだ賞味期限が2~3ヶ月残っているのに捨てるのはもったいない。世の中には食料が欲しいと思っている人がたくさんいるわけです。それなら、その非常食を捨てていた企業と、食料を必要とする人をうまくマッチングするクラウドシステムを作ればいいのではと考えました。ただ、このアイデアもなかなか実現しないまま過ぎていってしまいました。

後日、ある新聞社の友人にそのことを話したところ、「世論に訴えてみよう」と盛り上がり、その新聞社主催で非常食の有効活用に関するセミナーを開催しました。このセミナーにはこども食堂の関係者が多く参加して下さいました。タイミングよくテレビ局に務めていた知人から2,000食の非常食を提供する話がありましたので、希望する約20のこども食堂とマッチングして食料品を提供したのが最初のきっかけです。

それで終わりにするつもりだったのですが、寄付をしたこども食堂を利用していた子どもたちから「ご飯をくれてありがとう」といった手紙を受け取りました。寄付できる非常食が世の中にはたくさんあると分かっていましたので、本格的に取り組めば、もっと多くの子どもたちに食料品を届けることができると考え、「じゃあ、おじさん、もうちょっとご飯を持ってくるね」という気持ちで、法人化して継続することを決めました。

私は「起業する」「ビッグになる」といったことには興味がありません。ただ、さまざまなビジネスモデルが思いつくので、世の中が良くなるアイデアであるならば、それを消失させるのはもったいない、世の中の問題を改善したい、という個人的な趣味にも近い感覚で活動を行っているようなところもあります。

子どもの食の問題と「こども食堂」について

「こども食堂はこうあるべき」など、私の考えを押し付ける気はまったくないのですが、こども食堂といってもさまざまな形態があります。こども食堂というと「貧困対策」と多くの方は認識していると思いますが、それだけでなく、コミュニティ的な役割を果たすところもあるのです。

例えば、貧困以外のトラブルを抱えている子どももいます。極端な例では、世帯年収3,000万円~4,000万円の親が、自分達のライフスタイルを優先したい、育児をなるべく省力化したいという考えから、子どもにワンルームマンションを与え、「あなたは1人でここに暮らしなさい。クレジットカードを渡すから、ご飯は自分で買いなさい」というような家庭もあります。そのような家庭の子どもは、まともな大人の背中を見る機会がないまま育たなければならない。それは子どもにとって非常に厳しい状況となります。

監修した書籍「こどもSDGs」

一方、こども食堂に行くと、リタイヤしたおじいさんやおばあさんから、現役サラリーマンや大学生のボランティアまで、多様な人生のロールモデルと接点を持つことができます。その「経験の貧困」に対する処方箋にもなっているのが、こども食堂だと思っています。

最近、コロナ禍でより問題視されている、子どもの「孤食」への課題の解決にもつながると思います。人間同士のコミュニケーションの機微のようなものを学ぶ機会が失われてきているので、こども食堂の存在はやはり重要だと考えます。

経済格差が拡大している日本が、世界の中で相対的に貧しくなっていることから、十分に食べられない子どもがいるというのは大きな課題のひとつだと思います。家庭の経済事情によっては学校給食が命綱となっている子どももいるため、コロナで休校になって給食もなくなってしまったときには、より大きな課題を感じました。

SDGsと「こども食堂」

SDGsのゴールのうち、こども食堂と関連しているのは、「目標1 貧困をなくそう」や「目標2 飢餓をゼロに」から始まり、「目標3 すべての人に健康と福祉を」「目標11 住み続けられる街づくりを」「目標17 パートナーシップで目標を達成しよう」など、多くの目標に関連していると思います。

また「目標4 質の高い教育をみんなに」も関係しています。実際、こども食堂に無料の学習塾を併設しているところも多くあります。ただ、勉強をするだけでは子どもは集まらないので、「ご飯が食べられるついでに宿題も見てもらえる」というようにすると、多くの子どもが集まったりします。そういう意味でも、こども食堂は教育にもつながっていますし、先ほどお話ししたような経験の貧困といった課題も解消する処方箋になっていますので、広義の「学習」にもつながっているように思います。

他にも、放っておいたら焼却処分され、CO2を排出していた食料品も、子どもたちに食べてもらうことで、CO2を無駄に排出しない、という点で気候対策にも関係してきます。

私自身、SDGsのために活動しているというわけではありませんが、最終的なゴールは共通しているのではないかと思います。SDGsは、世の中にあるまだ解決できていない課題を挙げたものですので、それは私自身が「これをやったらもっと改善できる、この問題を解決できる」と思いついたビジネスモデルを実行していくのと基本的には同じ方向性であると考えています。

「防災ダボス会議@仙台2019」での登壇時の様子

最近ではSDGsが世間一般の注目を浴びたことによって、こども食堂の支援に協力的な企業が増えていますし、オンラインイベントを行うとさまざまな方々が参加してくださいます。そういう意味でSDGsは共通言語として素晴らしいツールになっていると考えています。

編集後記

子どもたちからの感謝の手紙によって法人化。世の中を良くしたいという欲求が根底にあり、それをご本人が楽しみながら行っているというところに感銘を受けました。
子どもの食問題は、貧困にとどまらず、多様化しています。あらゆる方面、あらゆる人たちが解決のために携わっていく必要があると改めて課題を認識しました。

ライター石原亜香利

多様なメディアでトレンドやビジネスパーソンに役立つテーマで執筆。特に専門家への取材記事を得意とする。BtoBビジネス向けの企業と顧客のコミュニケーションをつなぐライティングも行う。「読み手にわかりやすく伝える」ことがモットー。