宇宙の目でSDGs

2020/11/17
縣 秀彦氏(あがた ひでひこ)
国立天文台
天文情報センター普及室長
縣 秀彦氏(あがた ひでひこ)

天文学者。国立天文台 天文情報センター普及室長として、教育イベントの他、書籍や各種メディアに多数出演。様々な研究活動を幅広く啓発・普及していくアウトリーチ活動に尽力している。「科学を文化に!」&「世界を元気に!」をテーマに、ユニークなイベントを多数成功させている。真摯かつユーモア溢れる語り口で、幅広い層にファンを持つ。1961年生まれ、長野県出身。

国立天文台の顔として、メディアへのご出演や天文イベントの運営、世界中の子どものための天体望遠鏡普及活動など、マルチなチャンネルで天文学の素晴らしさを発信している縣先生。地球を最も遠くから見ている天文学者の視点でSDGsとの関わりかたを伺いました。

目次

  1. 世界を変えた「セルフィー」
  2. グローバリズムの「次の世界」へ
  3. 「宇宙原理」と「国際協調」
  4. 天文学とSDGs
  5. 取材を終えて

世界を変えた「セルフィー」

みなさんは「ペイル・ブルー・ドット(Pale Blue Dot)」と呼ばれる写真をご存知ですか?1990年に約60億キロメートル彼方で撮影された地球の写真です。NASA(アメリカ航空宇宙局)の無人宇宙探査機「ボイジャー1号」が、地球からの司令で撮影した「最も遠い場所から撮られた地球のセルフィー(自撮り写真)」です。

真っ暗な背景の中、たった1ドットのうす青い点。この小さく儚い点が、私たちの住む地球なのです。

写真1 ペイル・ブルー・ドット
(編集部にて一部を追記しています)
出典:https://images.nasa.gov/details-PIA00452

グローバリズムの「次の世界」へ

では、点ではなく、1個の球体としての地球(Whole Earth)を人類が実際に目で見たのはいつのことか?意外かもしれませんが1968年の12月。アポロ8号が史上初めて有人月周回飛行に成功したときで、ほんの半世紀前のことなのです。それ以来、肉眼で丸い地球を見た人類は、二十数名しかいません。ISS(国際宇宙ステーション)へ滞在した宇宙飛行士はたくさんいますが、地表からの距離400キロメートル程では、地球の丸みこそわかりますが、掌に乗るボールのような「球」を感じることはできません。人類は月まで出かけていってようやく、地球は小さな星で、限りある世界であることを実感したのです。この体験は、人類にとって20世紀最大のできごとだと評する人もいるほどです。
地球全体を一つの共同体とみなす捉え方がグローバリズム。世界35カ国以上に拠点をお持ちのノードソンさんは、まさにグローバル企業ですね。

もう一段階外側、宇宙の中の地球という意識を持つことで始まるのが「ユニバーサリズム」です。「uni-」と付くので「単一の」と勘違いされがちですが、単一の度合いが異なります。例えば、どこか遠い星に宇宙人が住むとして、その人達はどのような姿をしているでしょうか?ホモ・サピエンスとは全く異なる姿をし、生命活動の仕組みさえ異なった原理かもしれません。そういう相手がいると仮定すると、私たち人類は、細かな差こそあれ「みんな一緒」と考えられます。私たちも宇宙人なんだという意識こそがユニバーサリズムなのです。

©国立天文台

「宇宙原理」と「国際協調」

天文学者は「宇宙空間のどんな場所へ行っても、物理法則は変わらず成り立つ」という「宇宙原理」に基 づき研究を行っています。物理法則が成り立つということは、化学の法則も生物学のルールも成り立ちそうです。天文学は今では総合科学として幅広い学術分野が研究に参入しつつあります。一方、天文学研究で開発された技術が他の分野で生かされている事例もあります。
例えば医療分野では、ブラックホールの写真撮影に使われた技術が、MRIなど医療画像に応用されています。天体写真から宇宙の様々なことがらを解析する技術は、医療画像の分野でも活用されています。創薬に欠かせないスーパーコンピューターの開発も、天文学者の得意分野です。5Gを使った遠隔医療にも通信やマシン制御技術など、書き切れないほどたくさんあります。
また、国境や文化の差を越えた共同プロジェクトをいち早く成功させたのも天文学者達です。想像を絶する遠距離にある天体を調べるには、巨大な機材と、長時間の観測が不可欠です。晴天が多いとか、空気がキレイといった条件も重要です。個人的にはライバルかもしれませんが、同じ地球人として協力することが研究成果に繋がるのです。意識するまでもなくユニバーサリズムが根付いています。

天文学とSDGs

国立天文台では、国際天文学連合(IAU)の国際普及室(OAO)を三鷹キャンパスに招致し、積極的にアウトリーチ活動を行っています。IAUでは、天文学が持続可能な開発目標(SDGs)に貢献できる可能性として、17のアイコンのうち、9個には貢献できると考え、活動しています。

©国立天文台

日本ではGoToトラベル事業も始まり、国内旅行への関心が高まっています。天文学分野ではSDGsアイコン7、8、9の内容を包含した「宙ツーリズム(アストロツーリズム)」をご提案しています。広い夜空は宇宙そのものです。心静かに宇宙と対峙することは、自分自身を見つめる事にも繋がります。難しいことはありません。ひとり夜空を見上げるところから、あなたのSDGs活動が始まります。
およそ5000年前、四大文明の時代に始まったといわれる天文学は、音楽、算術・幾何に並ぶ人類最古の学問であり、今も世界中の人々の心を癒し、好奇心を刺激し続けています。

取材を終えて

「探査機が最後に撮った写真」といえば、2010年に日本の小惑星探査機「はやぶさ」が撮影した地球を思い出します。(http://spaceinfo.jaxa.jp/hayabusa/photo/images/hayabusareturn_01.jpg)今年(2020年)12月は後継機の「はやぶさ2」がリュウグウで取得したサンプルを地球へ送出、引き続き拡張ミッションで遙か遠い惑星を目指すそうです。このサンプルからどんな発見があり、いくつ地球の謎が解けるのか楽しみですね。

サイエンスライター富山佳奈利

幼少期よりジャンル不問の大量読書で蓄えた『知識の補助線』を武器に、サイエンスの意外な側面を軽やかに伝えている。趣味は博物館巡りと鳥類に噛まれること。北海道出身。鎌倉FMの理系雑学番組『理系の森』出演中(毎週土曜16:30〜 82.8MHz)