デザインで創る持続可能な社会〜パッケージデザイナーの視点から紐解く「つくる責任、つかう責任」〜
- パッケージデザイナー三原 美奈子氏(みはら みなこ)
パッケージデザイナー。三原美奈子デザイン代表。京都精華大学美術学部デザイン学科VCD専攻卒業後、デザイン事務所を経て2010年に独立し、三原美奈子デザインを設立。箱の設計・構造から、コストやマーケティングを踏まえたパッケージデザインまで一貫して手がける。食品、化粧品、雑貨など幅広い分野に対応。2024年、「日本パッケージデザイン大賞2025ボディ&ヘルスケア部門」で銀賞を受賞(https://www.jpda.or.jp/award/7509.html)。
デザイナーとしての活動に加え、展覧会や講演、ワークショップを通じてパッケージデザインの普及にも取り組む。成安造形大学講師。(公社)日本パッケージデザイン協会理事。
目次
パッケージデザインとの出合い
パッケージデザインに初めて触れたのは、大学の3年生のときでした。半年間の講義を受けたのが、現在の道を志したきっかけです。講義では、商品企画からパッケージ制作までを一通り行います。それまで平面のグラフィックデザインを中心に学んでいましたが、あまり「しっくり」感じていませんでした。自分は舞台美術などの立体物のデザインが好きなのかもと思っていたところで、パッケージデザインに出合ったのです。多面に施されたデザインが一体となって立体的に表現される部分に、おもしろみを感じました。大学卒業後に入社したのは、パッケージデザインを専門とするデザイン事務所です。そこで約17年お世話になり、2010年に独立しました。これまで食品や雑貨、化粧品など、業界や製品に特化することなく、幅広く対応しています。ただし、自分が理解や共感できるものであることを重視しています。例えば、私はお酒が飲めないので、アルコール飲料のデザインは難しいと思っています。お酒が好きな人の方が、消費者心理に寄り添ったデザインができると思うからです。パッケージは製品そのものでもあるので、自分自身が製品の魅力を理解できなければ、いいデザインは作れないと考えています。
イベントに登壇する三原氏(画像提供:三原氏)グラフィックデザインとパッケージデザインの違い
パッケージデザインの話をすると、グラフィックデザインとの違いについて聞かれることがあります。結論から申し上げると、全くの別物と私は考えています。そもそも立体と平面という違いがあります。また、パッケージデザインはパッケージ素材と印刷方式、セットアップの仕方なども考慮しなければなりません。さらに、化粧品や医薬品などは表示内容の法令遵守が必要です。成分表示では、見やすさや色覚多様性に配慮したデザインも求められます。これらはパッケージデザイナーに必須のスキルと言えるでしょう。グラフィックデザイナーがパッケージデザインをする場合、素材や法令など見た目以外の部分で苦労することが多いようです。パッケージデザイナーの中にも、商材やパッケージ素材に特化して対応している人も少なくありません。例えば化粧品に特化したデザイナーや、パウチなどの柔らかい包装材に特化したデザイナーなどです。頻繁に行われる法令の改正や、素材、印刷方式の把握は、パッケージデザイナーであっても難しいことなのです。
画像はイメージですパッケージの役割の変化
パッケージが語られる時代に
いまから5年ほど前に、ある企業のブランディング戦略の転換が話題になったことがあります。オリジナルブランド商品のイメージ刷新でしたが、それがSNS上で大きな話題になったのです。話題の主題はさることながら、デザイナー仲間はみんな、パッケージデザインそのものが消費者によって語られていることに非常に感激しました。
私はそれまで、パッケージデザインは見過ごされ続けているとすら思っていました。日常で目にしない日はないはずなのに、パッケージよりもやはり中身が重視されます。パッケージが注目されるのは、バレンタインデーなどの特別なイベントの時だけでした。それが、日常使いの商品のパッケージデザインが話題になっていたのですから、驚かざるを得ませんでした。話題のパッケージを見るために、店頭に足を運ぶ人すらいたそうです。パッケージデザインが認識されていることを感じた、印象的な出来事でした。
SNSが普及してからは、パッケージデザインへの関心が高まったように思います。パッケージデザイン優先で購入する「パケ買い」や、「映え」ということばが生まれたのもその現れでしょう。企業側も1990年代はパッケージよりも中身を重視する傾向がありましたが、現在はパッケージも含めた商品構想がなされています。私もクライアントから、SNSを意識した発注を受けることが増えました。難しいのは、SNSの「バズり」は、予測できないことです。「売れる型」がないところが、パッケージデザインの悩ましいところであり、面白いところでもあります。
SNSでの話題性からヒット商品になった事例
実際に私がデザインしたパッケージで、SNSで話題になった事例を紹介します。2025年2月に発売された「牛乳石鹸JETSTREAM 4&1 Lite touch ink(ジェットストリーム 4&1 ライトタッチインク) ソープホワイト」です。牛乳石鹸共進社株式会社と三菱鉛筆関西販売株式会社とのコラボ商品で、発売開始から話題になり即完売。さらに追加生産となりました。ボールペンということで、デザイン時にイメージしたのは事務職の会社員です。日常使いしながら、癒やしを感じていただけるようなデザインを意識しました。また、2月6日「風呂の日」の発売に合わせ、バスタイムを想起させるような雰囲気にしたのもこだわりです。SNS上では「かわいい」といった声が多く、想定通り主に女性からの反響が大きかったと思います。バスアイテムと文具のコラボレーションという意外性も、話題になった一因かもしれません。普段使いに馴染むシンプルな線画のデザインは、印刷できる線の細さに技術的な制約もありましたが、多くの方に喜んでいただけたことを嬉しく思います。
牛乳石鹸とジェットストリームコラボ品(画像提供:三原氏)世界と日本のパッケージデザインの違い
パッケージデザインは外国と日本でさまざまな違いがあります。日本特有だと感じるのは、開けた後のことや捨てることを考えたデザインが多いということです。例えば、開封後の箱を閉じておける工夫や、ペットボトルのラベルに剥がしやすい粘着剤を使っているなどです。開封しやすいように接着面を工夫したり、デザインで開けやすさを示したりするのも日本特有の気配りかもしれません。メーカーによっては、パッケージ機能について特許を取得している企業もあります。近年は日本企業の海外進出が進んでおり、外国にもそうしたパッケージデザインでの工夫が浸透してきているようです。
エコ素材のスタンドパウチ(画像提供:三原氏)他方、環境への配慮については特にヨーロッパにおいて積極的です。例えばお菓子は、外袋だけで包み、パッケージ素材の使用を最小に抑えている商品が多く見られます。日本では、衛生面や保存期間の長さ、人と分けることなどを考慮すると、やはり個包装が喜ばれます。日本特有の「もったいない」という精神や、湿度の高い気候も多重包装文化に影響しているかもしれません。いずれにせよ、諸外国に比べてパッケージに資源を多く使用していることに違いはないでしょう。
外国のパッケージには、素材自体が環境に配慮されたものも多くあります。例えばヨーロッパでは、飲料にペットボトルではなくスタンドパウチが使われていることがあります。写真のパウチは炭酸カルシウムを主な原料とし、プラスチックの使用を大幅に減らしたものです。日本では法律上使用できる範囲が限られていることもあり、あまり普及していません。また、こうしたエコ素材はコストバランスの都合上、企業側は採用しにくいという事情もあります。パッケージにかけられる予算には限りがあるため、コストが高いエコ素材は優先順位が低くなってしまうのです。実際に、クライアントと素材について検討するなかで、コストバランスの都合上断念せざるを得なかったことは何度もありました。ただ、近年は「自然派」をうたった商品や環境に配慮した製品が増えてきたため、そうした製品のパッケージでは積極的にエコ素材が使われるようになっています。
デザインを製品化する際の壁
デザインを製品化する際に課題となるのが、流通や販売時の「壁」です。
まず、普段私がパッケージデザインをするときの流れを説明します。
1、クライアントから商品内容やコンセプトなど基本的な情報を収集する
2、数週間〜1ヶ月ほどをかけて、コンセプトをもとにさまざまな切り口でデザイン案を考える
3、デジタルもしくは、実際に展開図を作成し立体的なモックアップ(試作品)を作成する
画像はイメージですモックアップの段階でデザインがいくら優れていても、商品が無事に輸送され問題なく販売できなければ意味がありません。また、多くの商品が並ぶ棚では、隣の商品に損傷を与えないことも重要です。あるとき、段ボール素材のパッケージで、内側が黒、外側が白いデザインを考えました。クライアントも提案に満足し、いざ量産しようという段階になったとき、パッケージを生産する現場から、輸送時に内側の黒が外側に擦れて色移りする可能性があるという指摘をされたのです。確かに、展開された箱を重ねて輸送すると、外側の白に黒が色移りしてしまいます。結局、そのデザイン案は不採用となりました。
また、組み立てやすさも重要になります。店舗で組み立てて使う場合には、誰でも簡単に組み立てられなければなりません。複雑な折り方や時間がかかる方法は、デザインとしていいものであっても使えないのです。
このように、印刷や加工など、技術的な制限のためデザイン変更を余儀なくされることは多々あります。私のようにパッケージデザイナーとして30年近い経験があっても、やってみなければわからないことが多いのが、パッケージデザインです。
これからのパッケージデザイナーの役割
デザイン業界にもAIの波はきていて、デザイナーの仕事が奪われるかもしれないとも言われています。しかし、パッケージには中身があって、その全てが同じものではありません。多種多様な中身に合わせて、オーダーメイドで考えるのが、パッケージデザイナーの役割です。消費者が気持ちよく開けられて、使って、捨てられる。そういったパッケージをこれからも考えていければと思います。
三原氏の作品(画像提供:三原氏)また、パッケージデザインの面白さや奥深さを伝える活動も、継続したいことの一つです。パッケージはみなさんの日常に身近なものなので、話を聞けばきっと関心をもっていただけると思います。私が理事を務める、公益社団法人日本パッケージデザイン協会で制作した『パッケージデザインのひみつ』という書籍もおすすめです。誰もが一度は手にしたことのある製品の、パッケージ技術や表現のひみつ(創意工夫)を紹介しています。「いつも目にしている箱や容器にはこんなひみつがあったのか」と、楽しんでいただけるでしょう。私たちパッケージデザイナーがどんなことを考えてデザインしているのか、パッケージを見て想像していただけると嬉しく思います。
編集後記
今回のインタビューで印象的だったのは、環境に配慮したパッケージを「作りたくても作れない」現実があることでした。素材やコスト、輸送といった条件を満たさなければ商品として成立しない以上、理想だけでは成り立たない領域です。パッケージデザインは見た目だけでなく、製造や流通、法律を含めた複雑な制約の上に成り立っていることを実感しました。
- 堀江恵美子
インタビュー記事の執筆を中心に活動。士業や医師、経営者のほか、インタビュー慣れしていない人物へのインタビューも得意とする。インタビュイーが言語化できていないことを汲み取り、読者に分かりやすく伝えることがポリシー。