家庭からできる資源の循環で目指す
持続可能な生活

2023/05/29
吉田 綾氏(よしだ あや)
国立研究開発法人国立環境研究所 資源循環領域 主任研究員吉田 綾氏(よしだ あや)

人文・社会科学の視点から、脱物質志向ライフスタイルについて研究をしている。廃棄物資源循環学会や環境経済・政策学会などに所属し、講演や論文の発表などの活動を意欲的に行なっている。

世界的に資源循環型社会への切り替えが求められるなか、消費者一人一人の意識向上が必要となりつつあります。今回は、消費者が衣類や食品、日用品などをできるだけ有効活用する方法や資源循環に対する意識向上のために必要なことなどを、国立研究開発法人国立環境研究所で資源循環領域の主任研究員としてご活躍中の吉田綾 氏にお伺いしました。

目次

  1. 資源循環や途上国のライフスタイル研究から片づけの研究へ
  2. 持続可能な生活に関する実態と現状の課題
  3. できるだけ『燃やさない』選択を
  4. 消費者が自ら意識を変えるには?
  5. 消費者の意識変容を促す自治体・企業の取り組み
  6. 編集後記

資源循環や途上国のライフスタイル研究から片づけの研究へ

私は14歳から18歳までの4年間、中国で過ごしました。ちょうど高度成長期の真っ只中で、建物や車が急速に増えていくのを目の当たりにしつつ、当時から水や大気の汚染、廃棄物の処理はどうなるのだろうと不安に感じていました。こうした背景から、中国や東南アジアをはじめとした世界の環境問題や廃棄物処理に関心を持つようになりました。

大学は京都大学の経済学部で 環境経済学のゼミに所属し、卒論では京都市の粗大ごみの有料化について研究を行いました。その後、東京大学大学院へと進み、修士課程では途上国が抱えるごみの問題について研究をしました。

現在は規制がありますが、大学院生だった当時はまだ、日本から中国へ廃プラスチックや古紙などの再生資源が輸出されていました。中国は再生プラスチック原料などの資源需要があるうえに、日本で処理するよりも安価に行えるためです。その輸出資源が現地でどのように環境に影響を与え、どのようにリサイクルされているのかを研究していました。

フィリピンの川辺で廃電子電気機器のリサイクルについて調査した際の様子

中国太原市内の発電所で石炭灰処理についてヒアリングした際の様子

その後、博士課程を経て、2006年4月から国立環境研究所に入所し、勤務しています。

国立環境研究所の役割は、国が環境に関するビジョンを検討する上で必要なデータを集めて提供することです。実際に研究結果は、環境省の審議会などの場で生かされています。
私は、これまでに電子機器やパソコンなどのリサイクル、およびリユースの研究や、東南アジアのライフスタイルと消費に関する研究を行ってきました。

2~3年前からは、上司が新たな研究対象へと移ったことがきっかけとなり、「片づけ」についての研究を始めました。ただ単にモノを整理するだけの片づけではなく、「本当に必要なものを選んで暮らす」「シンプルに生きる」といった志向の研究ととらえて取り組んでいます。

これまでメインとしてきた研究は資源のリユースやリサイクルでしたが、その本質は、「自然環境にとって持続可能な人間のライフスタイルとは何か?」を考えることでした。それは、「本当に必要なものを選んで暮らす」「シンプルに生きる」ということに近いのではないかと考えたのです。

そこで、「本当に必要なものを選んで暮らすにはどうすればよいか」、また「どうすれば、環境にやさしい持続可能なライフスタイルが送れるのか」という問いを立てました。これらの問いを探るために片づけを追求し、特に所持品を減らす行動が環境保護につながる仕組みについて研究しています。

持続可能な生活に関する実態と現状の課題

現代社会は、物質的な豊かさをもたらした一方で、大量消費・大量廃棄の産業体質と消費構造が、環境劣化と資源の浪費を引き起こし、環境・資源の持続可能性を危機にさらしています。こうした背景から、人々の消費行動を持続可能な形態へと転換を図る必要性が指摘されています。

日本の消費者は、持続可能な生活に対してどのくらい意識的に取り組んでいるのでしょうか。

「令和4年版消費者白書(※1)」では、10代から20代の環境問題や社会課題解決への取り組み状況について、約88%がエコバッグを使用しており、70%以上が食品ロスの削減や、ごみを減らして再利用・リサイクルへの取り組みを行っていることがわかっています。この結果だけを見ると、多くの人が行動につなげているようです。

出典:「令和4年版消費者白書」

一方で、意識面では消極性が見られます。ISSP国際比較調査「環境」の日本の結果(※2)では、「私だけが環境のために何かをしても、他の人も同じことをしなければ、あまり意味がないと思う」に対して約6割が「賛成」と回答しました。また、若い世代ほど「賛成」が多い傾向がみられました。

日本財団による「18歳意識調査(※3)」の6ヵ国比較調査では、自身と社会の関わりについての項目のうち、「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」が26.9%と、3割に満たない結果でした。インドは78.9%、中国は70.9%、アメリカは58.5%であり、日本は最下位で、他の国に差をつけて低い結果となっています。

この結果から、日本人は身近なところでは取り組んでいるものの、その一つ一つの行動で社会が変わる、あるいは社会を変えようという意識を持つことがまだできていないということが読み取れます。

日本では、環境に配慮した行動をとるのにお金や手間がかかることも、意識や行動が変わっていかない理由の一つであると考えられます。

できるだけ『燃やさない』選択を

持続可能な生活を送るためには、資源循環を考えた選択と行動をおすすめします。

衣類については、近年、お手頃な価格の商品が多く売られていることから、お蔵入りしているものも多くあるのではないでしょうか。一番良いのはお手入れやリメイクをしながら長く着続けることですが、もし着ないのであればリユース、つまり他の人に着てもらうことをおすすめします。リユースできないものは古着の回収に出すなどしてリサイクルすることで、できるだけ可燃ごみとして燃やさないようにするのが、より持続可能な選択だと思います。

私自身、片づけを勉強する前は『まだ使えるものを捨てるのはもったいない』と思っていましたが、『持っているのに使わないのが、一番もったいない』ということに気が付きました。保管をするにもスペースをとりますし、何より『もの』も活かされません。ですから、可燃ごみに捨てることと、使わないのに保管し続けること以外の選択肢として、リユースやリサイクルなどの「活かす」ことを検討するのがよいと考えます。

食品については、食べずに捨てるのはとてももったいないことです。誰かにお裾分けをしたり、寄付をするなど、これも可燃ごみとして燃やすのは最後の手段と考えましょう。

外食時に食べきれなかったものは、持ち帰り用容器に入れてテイクアウトさせてもらうとよいです。環境省、消費者庁、農林水産省でも「mottECO(もってこ)」(持ち帰り用容器であるドギーバッグの新名称)を普及啓発していますが、認知度はさほど高くなく、なかなか普及していかないのが現状です。

電化製品については、エアコン、テレビ、冷蔵庫(冷凍庫)、洗濯機(衣類乾燥機)の4品目の家電リサイクルの認知度は高いですが、小型家電はどのように処分するのか、あまり知られていません。小型家電のリサイクルについても法律がすでにありますが、製品の種類や大きさ、住んでいる自治体によって回収対象や回収方法が異なるため、対応を面倒に感じてしまいがちです。

しかし最近、充電式の小型扇風機などに内蔵されているリチウムイオン電池が原因とみられる火災が全国各地で問題になっています。このことからも、充電式電池を内蔵した製品の適切な分別排出を早急に広めていかなければならないと感じています。

消費者が自ら意識を変えるには?

消費者が持続可能な生活を送るためには、まず意識を変えることが必要になるでしょう。

何よりもまず、買い物時に踏みとどまって、よく考えてから買う習慣が必要かもしれません。生活していくうちに、使わなくなることもあるでしょう。もし処分する必要が出てきたのであれば、「リユースできないか?」「リサイクルして資源を取り出せるのではないか?」という視点で見ていただきたいです。

缶・ビン・ペットボトルの分別は慣れていると思いますが、その他のものも分別することによって活かす先が生まれるという意識で、ご自身でも調べて対応していただきたいですね。ポイントは、可燃ごみとして捨てようとしたときや、リサイクルボックスに入れたときに、ごみの行き先はどうなるのかと想像をふくらませることです。

近年はSDGsの普及により、持続可能性についての情報量は圧倒的に増えました。学校でも教えるようになったので、SDGsの認知度は10代が全世代の中で一番高いことも調査で分かっています(※4)。全世代に渡ってSDGsなどの認知と理解を進める必要があるほか、自ら積極的に情報を集める、という姿勢も大切かと思います。

コミュニティを作ってつながることにも可能性があると思います。片づけやリサイクルをテーマにSNSでつながり、お互いが取り組んでいることを共有することで、意欲も湧いてくるのではないでしょうか。

消費者の意識変容を促す自治体・企業の取り組み

消費者が意識を変えるには、周囲からの働きかけも大切です。

消費者が自ら、ごみの行き先を想像するのは限界があります。
そこで自治体はリサイクル用の回収ボックスの近くに、回収サイクルの絵を載せるなどして、ボックスに入れる意味を理解できるように工夫しています。

【参考】上勝町ゼロ・ウェイストセンター(徳島県勝浦郡上尾町)のゴミステーション
ごみのイラストとリサイクル先、どのようにリサイクルされるかを掲示物でわかりやすく表示している。

最近では、「nudge(ナッジ)」といわれるアプローチ方法が模索されています。無理に勧めず、自然に良い流れに乗せる手法です。

例えば、ごみの分別を促す際には「ごみの分別にご協力ください」という貼り紙をするのが従来のアプローチ方法でした。

ナッジアプローチとしては、例えば福島県の事例があります。可燃ごみとペットボトルや缶との分別を促すために、可燃ごみのボックスの上部に「それは燃えるゴミ?」というポスターを掲示しました。「今、自分が捨てようとしているこのごみは、燃えるごみでよかったのだろうか?」と一度立ち止まり、自分の行動を振り返るきっかけとなります。

メーカーなどの企業は、よりエコな取り組みを行い、消費者の心を掴んでほしいと思います。消費者にその取り組みに共感してもらい、自社商品を選んでもらうというのが最も理想的な姿だと思います。それは多くの消費者が「自分一人が行動しても意味がないのではないか?」と感じてしまう課題への解決策にもなります。情報が少ないことも原因の一つだと思いますので、ぜひ企業側からも、積極的な情報発信を心がけていただきたいと思います。

最近では、自社商品の環境負荷を数字としてホームページなどに載せているのをよく見かけるようになりましたが、これはとても有効だと思います。消費者が商品を選定する際に環境負荷を確認できれば、おのずと消費者が持続可能な選択をできるようになりますし、企業としても、消費者の持続可能な生活をサポートしていることになります。これからも、このような積極的な情報発信を期待しています。

編集後記

普段、自宅で出たごみの分別の際に、ただルールに沿って捨てることだけを考え、まったく想像をふくらませていなかったことに気づかされました。捨てた先でどのように活用されるのかなどを想像することは、持続可能な生活への第一歩。また、企業がSDGsへの取り組みを積極的に発信していくことは、確実に消費者の意識変容につながるとも思いました。

ライター石原亜香利

多様なメディアでトレンドやビジネスパーソンに役立つテーマで執筆。特に専門家への取材記事を得意とする。BtoBビジネス向けの企業と顧客のコミュニケーションをつなぐライティングも行う。「読み手にわかりやすく伝える」ことがモットー。


【出典】

※1 消費者庁「令和4年版消費者白書」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2022/white_paper_144.html

※2 ISSP国際比較調査「環境」
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20210201_8.pdf

※3 日本財団「18歳意識調査」2022年3月24日「第46回 –国や社会に対する意識(6カ国調査)–」 報告書
https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2022/03/new_pr_20220323_03.pdf

※4 朝日新聞社「第9回SDGs認知度調査」
https://miraimedia.asahi.com/sdgs_survey09/