物流2024年問題の要と解決策
~物流・荷主各社に期待すること~
- 立教大学 経済学部 経済政策学科 教授首藤 若菜氏(しゅとう わかな)
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日本女子大学大学院人間生活学研究科博士課程単位取得退学、博士(学術)。山形大学人文学部助教授、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス労使関係学部客員研究員、日本女子大学家政学部准教授などを経て、2018年から現職。労使関係、女性労働を研究テーマとする。近年は物流2024年問題にまつわる有識者として政府の審議会や検討会に参加している。
今回は、労使関係を専門とし、政府の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の委員も務める立教大学 教授 首藤若菜先生に、主な課題と解決策についてお話をお伺いしました。
目次
物流に関する研究を始めたきっかけ
私は主に労使関係や女性労働を専門に研究していますが、近年は物流2024年問題により物流業界の課題意識が強くなっていることもあり、研究や発言の機会が増えてきました。
物流の研究を始めたきっかけは、2016年に起きたヤマト運輸のサービス残業問題でした。翌年、法人顧客に対して一斉値上げがされたいわゆる「ヤマトショック」といわれる一件です。労使関係の視点から研究を始め、2018年12月に研究結果をまとめた「物流危機は終わらない 暮らしを支える労働のゆくえ」という本を出版しました。
その後、労働基準法の改正でトラックドライバーの一年当たりの時間外労働の上限を960時間に規制することが決まり、それに伴い審議会などにお声がけいただけるようになり、物流2024年問題に関わるようになりました。
現在は検討会の委員として政策に携わるような研究や活動も行っています。またメディアなどでの解説や各地の講演も行っており、この問題をできるだけ広く知ってもらい、対応していただきたいとの思いでお話ししています。
物流2024年問題は一過性のものではなく、今後も長期にわたって続く問題です。人口減少の中、物流業界は深刻な人手不足に陥ると予測されているため、労働時間削減だけでなく、中長期にわたってどのようにしてドライバーを確保していくのかという視点で捉えています。
物流業界の構造的な問題
物流2024年問題が労使関係の話で終わらないのは、この業界が構造的に特殊であることが背景にあります。長時間労働の問題は、従来は物流事業者が解決すべきと思われていましたが、2010年代半ば頃から運送会社とドライバー間の話し合いだけではまったく問題が解決しないことがわかってきました。
運送会社は、激しい市場競争の中で数多くの競合他社の中から荷主に選ばれる必要があり、契約を結んだ後も継続してもらう必要があるため、荷主に対してどうしても立場が弱くなりがちです。荷主の指示の下に働いているといっても過言ではないケースもあります。それが原因となり長時間労働や人手不足という問題が起きていることから、荷主にも責任を担ってもらわなければならないという体制がつくられていきました。
2015年頃は、荷主に対して協力を呼びかける程度でしたが、効果が薄く、規制だけが強化されていきました。物流2024年問題に対応するために、2023年6月に政府から「物流革新に向けた政策パッケージ」が出され、荷主にも物流負荷の軽減を求める旨が記されました。今後、法的な規制をかける主旨も記されています。
物流2024年問題の解決の鍵となる運賃の適正化
先述の通り、物流業界の労働問題は2024年に限った一過性の問題ではなく、過去から長きに渡って続いてきた問題であり、今後も続いていく問題だと認識しています。一連の問題は運送会社、ドライバー、荷主すべてに関わる全体の問題と捉えており、解決に向けた第一の要となるのは、運賃の適正化だと考えています。
これまでは、本来荷主が負うべきコストをドライバーが長時間労働で負ってきたと考えています。例えば、かつては荷主が運賃を抑えたいことを理由に高速道路料金を払わないことが多かったため、ドライバーは一般道路を走らざるを得ず、自ずと長時間労働になっていました。
またトラックの荷積みにはパレットを使わず、じか積みをしたほうが隙間なく荷物を積載できるため、1台のトラックでできるだけ多くの荷物を運びたいとの思いから、荷主はじか積みを依頼する傾向がありました。しかし荷積み時間について、フォークリフトで運べるパレットなら10トン車であれば30分程度で済む一方で、じか積みは手積みをする必要があるため2〜3時間要します。これもドライバーの負担が増し、労働時間を長引かせる原因でした。
また、本来ドライバーの業務ではない荷物の積み下ろしなどの付帯業務を担わせることも、労働時間が延びる原因として問題視されています。標準約款といわれている運送契約では積み下ろしは別途料金が必要になるとの規定があります。
人手不足に加えて長時間労働に規制がなされ、どう対応すべきかを考えたときに、荷主には本来負うべきコストをきちんと負うことが求められています。
解決のために荷主に期待すること
荷主が変わらなければ物流は変わらないと考えています。荷主に期待することとして「荷待ち時間や荷役時間の削減」と「運賃の引き上げ」の2点があります。
現状、ドライバーには一運行あたり約3時間、荷待ち時間と荷役作業にかかっている(国土交通省「トラック輸送状況の実態調査(令和2年度)」より)といわれているため、どこまで削減できるかが大事です。まず荷主が行うべきことは、委託している運送会社のドライバーは何時間荷待ちをしているのか、荷役にどれほどの時間がかかっているのかという現状把握です。そして30分でも縮める方法を考えていただければと思います。30分から1時間短縮できればドライバーはもう一ヶ所回ることができたり、早く帰宅できたりするかもしれません。
対策例としては予約システムを入れること、パレットを使うこと、高速道路を使うことなどが挙げられます。
運賃の引き上げについては先述の通りです。ぜひ交渉の場でも話し合っていただき、協力していただきたいと思っています。
近年は政府もコストの上昇分を価格に反映させる「価格転嫁」の流れを作ると強く打ち出していますが、荷主も同様に価格転嫁を行って適正価格でサービスを提供していくことが、日本全体の経済的な影響を考えても必要なのではないかと考えています。
荷主側も自分たちの利益を削ってまでして賃上げに協力するというのは無理な話だと思いますので、上がった物流コストを商品価格に転嫁していき、最終的には消費者全体で負担していくことがあるべき姿なのではと思っています。
当然、賃上げと同時に荷積みや梱包の工夫などによって業務を効率化し、生産性を向上させることによってコスト削減を進めていくことは重要だと考えます。
すでに大手食品メーカーなどが他社と協力してトラックに混載して運ぶといった取り組みを進めています。トラックは重いものと軽いものを一緒に積載したほうが効率的に運べるといわれていますが、例えば加工食品の軽い商品と飲料メーカーの重い商品を一緒に運ぶなど、業界を超えて企業間で混載して共同配送するという事例も出てきています。
ノードソンの荷崩れ防止用ホットメルトシステムについて
ノードソンでは、特に飲料・食品・日用品メーカー向けに段ボール、重袋、平判包装などの外装にホットメルト接着剤を塗布することで、パレットなどに積み上げた際や輸送時の荷崩れ防止が実現できるホットメルトシステムを提供していると知りました。
今後、荷物の混載が増えていくと予想されるため、生産性を上げるためにも、荷物をどう運ぶのか・荷崩れをどう防いでいくかは荷主にとって重要な課題になるでしょう。そのため、こうした技術を用いることは非常に有効だと思います。従来は運べなかったものも、このシステムで運べるようになったらとても効果的だと感じました。
またストレッチフィルムを手作業で巻き付け固定する工法と比較し、プラスチックの消費量やプラスチックゴミ、工数の削減が可能であり、CO2発生抑制につながるという点に関しては、作業時間の削減と共にSDGs対応の観点からも推進されるべきと考えます。
「物流2024年問題」とSDGsとの関係
「物流2024年問題」とSDGsとの関係を考えたときに、問題の解決を進めることはCO2の排出量削減にも寄与すると考えられます。
現在、運送会社のトラックの平均積載率は約40%(国土交通省総合政策局情報政策本部「自動車輸送統計年報」より)というのが現状です。そこで、例えば2台で4割ずつ積載して運んでいるのを1台に集約し、8割にして運ぶようにすれば、その分だけCO2の排出量もドライバーの数も労働時間も短くて済みます。こうした取り組みはSDGsにも貢献すると言えるでしょう。
またSDGsでは女性活躍推進や就業する人々の収入や労働環境の改善もテーマとなっていますが、トラックドライバーの女性労働者の比率は約4%であるため、女性の雇用を増やすことは有効だと考えます。
中継地を設けてドライバーが交代したり、短時間勤務を認めたりするなどして労働時間を削減することで、女性はもっと働きやすくなると思います。女性が働きやすい職場づくりは男性にとっても働きやすい職場となるため、ぜひ推進していっていただきたいと思います。
女性の働き手を増やすことは物流2024年問題を超えた人手不足への対応策となり、持続可能な物流のためには必要な要因であると考えています。
編集後記
物流2024年問題は各所で取り上げられていますが、運送会社とトラックドライバー、荷主といったさまざまな立場が関係する問題であると再認識しました。現在は荷主にも新たな動きが見られると知り、今後は、物流業界が本格的に変わっていくことに期待が高まりました。
- ライター石原亜香利
多様なメディアでトレンドやビジネスパーソンに役立つテーマで執筆。特に専門家への取材記事を得意とする。BtoBビジネス向けの企業と顧客のコミュニケーションをつなぐライティングも行う。「読み手にわかりやすく伝える」ことがモットー。