重箱から見直すSDGs
- 株式会社フードコミュニケーション 代表取締役なぎさ なおこ氏(なぎさ なおこ)
食育料理家。2007年「食のチカラで病気やケガの予防に貢献する」をコンセプトに飲食店を開業。店舗運営の傍ら、料理講座や働き方関連の講演にも積極的に登壇。文字通り「一生の付き合い」となる食の場面を豊かにする知恵や元気を発信し続けている。
モットーは『food is gift〜食べ物は毎日できる身体と心へのプレゼント〜』『贈り物を選ぶように、食事を選ぶ事』を提案し、食のある健康な空間と環境づくりに愛情と情熱を注いでいる。また、地方創生ディレクターとして、経営面でも地域経済の活性に尽力している。青森県在住。
https://nagisanaoko.com/
(本文中の写真撮影:中村 佳代子/fig所属 https://fig-photography-hachinohe.com/)
目次
おせち料理と年末年始
クリスマス、御用納め、大晦日、元旦。年末年始は特別なお料理が食卓を賑わすかたも多いと思います。私は6年前から「詰めて持ち帰る」おせち料理の講座を開いています。例年満席の人気講座で、2021年も感染対策に配慮しつつ開催することができました。
- 今年は36品目
- 「手間の掛けどころ」を伝授
おせち料理の起源を辿ると、古くは平安時代の巻物にも登場するそうです。しかしこれは特別な身分のかたが執り行う祭事の一環。一般庶民がおせちを意識したのは江戸時代に入ってからだそうです。しかも、和食と同様で、コレといった定義はありません。個々のお料理の内容や名前、食べ始めるタイミングにまで地域や家ごとのこだわりがあります。厳格なルールが無い中、縁起を担いだ語呂合わせをふんだんに盛り込んだメニューが生まれていきました。そういった違いが面白くもあり、難しいところです。
婦人雑誌や料理講座の普及とともに、教科書的なおせち料理の定型が生まれたと考えられます。
三段の重箱の中には、日持ちがするものが詰められます。これは、正月三が日くらい台所に立たなくてもいいようにと言うことからのようです。現代のような保存技術やコンビニエンスストアが無かった時代の生活防衛策とも考えられますね。
なぎさカフェで「オリジナルおせち料理」の提供を始めてからは10年以上になります。教科書的なメニューとは一味も二味も違いますが、語呂合わせで幸せを願う気持ちや、最新の保存技術を活かした品々を美味しく食べて欲しい、楽しい時間を過ごして欲しいという気持ちはしっかり受け継いでご提案を続けています。
季節のメニューは、それだけで特別な思い出と結びつく重要アイテム。ですが、準備や後片付けもスペシャルに重労働です。「手間がかかるから年々やらなくなってしまって…」とおっしゃるお客様の声に胸を痛めてきました。そこで、おせちはレッスン、バーベキューは通信販売、オードブルはケータリングなど、肩代わりできる部分を半調理するなど、カフェ以外のメニュー開発も積極的に行ってきました。ポイントは「最後のひと手間はお客様にお願いする」こと。現代では「サッと温める」「ソースをかける」「お皿に移して葉物を添える」といった簡単なことも調理と呼んでしまえると考えています。仕上げをお客様ご自身で行えるよう、お膳立てをすることも大切な仕事です。
- 【手描きレシピは「調理のハードルが下がる」と評判のアイテム】
- 【楽しいけれど準備が大変なBBQもセットで提供。参入障壁を下げることで楽しむ人の裾野を広げる】
コロナ禍で加速した「コショク」
感染症の広がりを防ぐために、一人もしくは少人数で食事することが推奨されています。久しぶりにカフェの営業を再開した時、「ずっと孤独でした。食事が空腹を埋め、カロリーを摂取するための作業になってしまった」と悲しむお客様の声も届きました。誰かと食べたい、お店で食べたいという気持ちが、より一層孤独感を際立たせていると感じました。
「食」の前にさまざまな漢字を当てはめて「コショク」と読むことができます。「個食(個別の食事)」「孤食(孤独な食事)」「固食(メニューが固定化した食事)」など、以前から望ましくない食事スタイルとされてきました。まじめな人ほど「コショクはいけない。でも、でも…」とさらに辛くなってしまう環境だったと思います。
大丈夫ですよ。今席についているのがあなた一人であったとしても、それが孤独とは限りません。そのお料理がお皿に乗るまでに、たくさんの人の手と思いが繋がっています。食材の生産者、食器やカトラリーの製造元、レシピを考え伝えた人、輸送、販売、全てがあなたの手元に届くまで、途切れることなくリレーされてきました。リレーの花形と言えば、アンカーです。アンカーのあなたは、その一品(ひとしな)をじっくり味わってください。
対価を見直すタイミングかもしれない
感染対策としてデリバリーサービスが急速に普及したのも2021年でした。多くの飲食店が生き残りを懸けて挑戦しました。デリバリー仲介システムが一気に有名になりましたが、特に小規模飲食店には厳しい状況でした。
数え上げるときりがありませんが、お料理を提供する飲食店にも、お客様にも、大きな決断が必要になったと思います。それは「店舗と全く同じ体験はできない」という割り切りです。
キレイな盛り付けや熱々の状態を実現するため、これでもかという量の梱包材で包んだり、容器を二重にしたりと、お料理以外の課題に頭を悩ませる日々が続きました。いつどのくらい入るか分からない注文に備えて、器や食材の在庫が増えてしまったお店も多いと聞いています。小規模店舗だとそれらを保管する場所さえないこともあるため、デリバリーに参入できないお店もありました。
SDGsのためにレジ袋を有料化しても、デリバリーのドリンク1個を保護するためにラップや緩衝材を袋いっぱいに詰め込んでしまうのでは、廃棄物が増えるばかりです。本当に守らなくてはいけないものは何だったのか?振り返って考えるときが来たのではないでしょうか。
ただし、悪い事ばかりではありません。デリバリーサービスでは事前決済で注文が入ります。自粛要請の終わりが見えず金銭的にも不安ななか、注文を受けた分は必ず支払いがあることは本当にありがたく、大きな安心感となります。
もう一つ、大切な価値を再確認する機会になりました。お客様の笑顔を直接目にすることが、店舗でサービスするときのエネルギー源ということです。「いらっしゃいませ」「旬の野菜ですよ」「ごちそうさま!美味しかった」この一瞬が、かけがえのない時間であると改めて感じました。
【参加者と笑顔で記念撮影。幼児からアスリート、留学生、常連のお客様などが参加。ご家族、ご友人同士や、SNSのフォロワーなど、バラエティ―豊かな顔ぶれでした】
お料理と写真と思い出
「インスタ映え」が当たり前となり、『飲食店では料理を食べるよりも写真を撮ることに熱中するひとばかりだ』と、苦言を呈するかたは少なくありません。実は「映える」から逆算してメニューを組み立てる依頼も少なくありません。撮影され、拡散されるための企業努力です。しかし、思い出してください。スマートフォンが普及する以前から、SNSが生まれるはるか昔から、カメラはたくさんのお料理を撮影してきました。
旅行先やお祝いの席、初めて焼いた卵焼き、アルバムにはたくさんのお料理が残っていると思います。
ではなぜ、「映え」に抵抗感があるのでしょうか。鍵は「主役」にあると思います。撮られるお料理と食べるあなた。主役はどちらでしょう。
プロがお料理の写真を撮る時には、いろいろなテクニックを駆使しています。特に光の加減は重要だと聞きました。お店で席について、お料理が届いたその場所が撮影条件に適しているとは限りません。お料理を主役にした写真はプロのカメラマンに任せて、あなたは食事を味わうことに集中してみませんか?その上で、自分たちの思い出やその場の空気感を写真におさめることを楽しんでほしいと思うのです。
【SNSでのタイムリーな発信も人気の秘訣。繋がる入り口を複数用意することが誰かの孤独を癒す場合もある】
ノードソンの専門家インタビュー企画について
記事を読むことで、普段関わることのない職種の方々の仕事内容やSDGsへの取り組み、考えを知ることができます。このような形で、専門家の知見を発信され、私たちが考えるきっかけ作りをされているノードソン株式会社様の取り組みは素晴らしいと思います。さまざまな専門家と繋がることで、また新しいサービスや価値、発想が生まれそうな気がするので、今後もこの取り組みを進めていただきたいと思います。
超速美味!小魚とミックスナッツの田作り風
コンビニエンスストアで手軽に購入できる材料を使って、おせちにもおかずにも、お酒のお供にもピッタリな一品をご紹介します。
~レシピ~
■材料
小魚(ちいさめの煮干し) 30g
ミックスナッツ(くるみやアーモンド) 50g
白ごま 大さじ1
■調味料
しょうゆ・砂糖・みりん 各大さじ1
■作り方
1.手早い調理がポイントなので、材料を全て準備しておく
2.ナッツと小魚をお皿に出し、ラップをせずにレンジで1分程加熱して、水分を飛ばす
3.フライパンに調味料を入れて煮詰める
4.小魚、ナッツ、ごま、を加えて絡める
5.オーブンシートを敷いたお皿にならべて冷ましたら完成
アーモンドの香ばしさとタレの焦げる香りが、お魚が苦手なお子さんにも大好評です。
編集後記
以前から「食事の目的は、カロリー摂取だけではありません」と語っているなぎささん。コロナ禍で飲食を通じたコミュニケーションが制限されるなか、これまでとは違う形でのご苦労も多いと思います。そのようななか、今回の取材を通して、新たな思いが立ち上がってきました。「コショク」をもう一歩先へ進めて「Co- 食」、新しい形で「みんなと」食を楽しむ方法を考えるタイミングが来たのかもしれない。制限の中で精一杯の工夫を凝らすことは食事にも当てはまりますね。
- サイエンスライター富山佳奈利
幼少期よりジャンル不問の大量読書で蓄えた『知識の補助線』を武器に、サイエンスの意外な側面を軽やかに伝えている。趣味は博物館巡りと鳥類に噛まれること。北海道出身。鎌倉FMの理系雑学番組『理系の森』出演中(毎週土曜16:30〜 82.8MHz)