災害ボランティア活動を通じて、
一人一人が取り組む持続可能なまちづくり

2023/08/28
渥美 公秀氏(あつみ ともひで)
大阪大学大学院 人間科学研究科 教授渥美 公秀氏(あつみ ともひで)

1961年大阪府生まれ。1985年大阪大学人間科学部卒業。1989年フルブライト奨学金によりミシガン大学大学院に留学、1993年博士号(Ph.D.心理学) 取得修了。同年大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得修了。1993年10月神戸大学文学部助教授、1997年大阪大学大学院人間科学研究科助教授などを経て、2010年大阪大学大学院人間科学研究科教授に就任。2022年より同研究科長。自宅のあった西宮市で阪神・淡路大震災に遭い、避難所などでボランティア活動に参加したことをきっかけに災害ボランティア活動の研究と実践を続けている。

大規模災害が続く日本において、SDGsへの意識の高まりを受け、一人一人に災害に対するリスク管理と、レジリエントなまちづくりへの意識向上および貢献が必要とされています。今回は、災害に強いまちづくりのために何ができるのか、災害ボランティア論を専門とする渥美 公秀 先生にお話をお伺いしました。

目次

  1. 実験社会心理学から震災体験を経て災害心理学へ
  2. 災害ボランティア活動の意義
  3. 災害ボランティア活動の秩序化のドライブと遊動化のドライブ
  4. SDGsと災害ボランティアの関係
  5. 日頃のご近所付き合いが最大の防災活動であり、持続可能なまちづくりにつながる
  6. 編集後記

実験社会心理学から震災体験を経て災害心理学へ

1995年1月17日未明、私は自宅のあった兵庫県西宮市で阪神・淡路大震災に被災しました。避難所などでのボランティア活動を契機に研究の方向性を模索することになり、現在は災害ボランティアや災害研究などを専門に活動しています。

ただ、初めから災害ボランティアを行おうと思ったわけではなく、当時は「災害ボランティア」という言葉自体もなかったと思います。

阪神・淡路大震災後の災害ボランティア

被災後、身近な人々があらゆる状況に苦しむなか、とにかく自分にできることを精一杯やろうと思い、町に出て給水車から水を汲むお手伝いをしたり、避難所で食べ物や救援物資を配ったり、風呂焚きをしたりしていました。正直、当時は災害ボランティアをしているとは思っていませんでしたが、私の行動を見ていた方々が口を揃えて「あなたが行っていることは災害ボランティアだ」と仰るので、そうなのだと改めて自覚しました。

もともと、私は実験的手法を用いて社会心理学的研究を行う実験社会心理学が専門でした。この学問では、主に実験室の中で集団の傾向を研究します。しかし震災後は実験室に限定せず、現場で起きているさまざまな問題に直接関わって、現場の人々と共に解決策を考えながら研究するのも一つの方法ではないかと感じたのです。

震災から半年ほど経った頃、災害ボランティアと呼ばれる活動が社会現象になりつつあったこともあり、ある種、使命感のようなものを感じ、研究しなければならないと思い始めました。

現在、認定NPO法人日本災害救援ボランティアネットワークを立ち上げ、災害時には被災者救援や被災地の復興活動支援を行い、平常時には各地域で災害救援に関する研修プログラムや防災ワークショップの企画・運営などを行っています。

災害ボランティアに関係する研究も複数行っています。例えば阪神・淡路大震災で被災した人が次に起きた新潟中越地震で被災した人を助ける活動をし、新潟中越地震で被災した人が次に東北を中心に起きた東日本大震災で被災した人を助けるといったような、災害ボランティアのリレーが行われていますが、この現象のメカニズムの研究などを行っています。

また自身の経験から、ボランティアは「ただ被災者のそばにいる」ことが一番助けになることを肌で実感しました。本当の意味で寄り添うとはどういうことかを、災害に限らず、さまざまな場面を通じて研究を行っています。

災害ボランティア活動の意義

災害ボランティア活動は、復興までの道のりにおいて人手が必要な場面で非常に役立っています。それに加えて、あまり認識されていない意義として「一つの生き方の選択肢を示す存在でもある」という点があげられると思います。

現代の人間関係における交換の様式は大きく3つの混成で成り立っているといわれます。一つは慶事の贈り物やお中元の慣習のように知人や親族に物をあげたりお返しを返したりする贈与の関係。もう一つは国家から税として徴収され、それを国家が再分配する関係。

新潟県小千谷市の復興支援の田植え
(写真提供:大阪大学大学院 渥美公秀教授)

そして、金銭を介した市場の関係です。ところが、災害ボランティアはそのいずれにも当てはまりません。見ず知らずの方に、国家のコントロールは受けず、金銭の関係もなく関わっていくからです。

もちろん、災害ボランティアは皆がやらないといけないということでもありません。たまたま、あるタイミングで、活動可能な状況にある人がやってみる。それによって、助けられた人も助けた人も「こういう人間関係もありなのでは」と知るためのきっかけになるのではないでしょうか。

災害ボランティア活動の秩序化のドライブと遊動化のドライブ

災害ボランティア論のなかでは、災害ボランティア活動の様式を「秩序化のドライブ」と「遊動化のドライブ」の2つに分けて論じています。

秩序化のドライブ(以下、秩序化)とは、災害ボランティア活動の秩序化を推進するスタイルで、ニーズに対応する活動を、効率よくマニュアル通りに遂行することを目指します。例えば、集まったニーズ25件を支援するといった目標を設けて活動をしていきます。

岩手県野田村での足湯ボランティア

一方、遊動化のドライブ(以下、遊動化)は現場での臨機応変な対応を推進するもので、たまたま目の前の人が困っているのを見かけたら助けよう、と行動を起こします。「今日は2人しか助けられなかったけど、役に立ったのだからそれでも良いのでは」という考え方です。

我々がNPOとして2018年の西日本豪雨のときにボランティア活動を行った際は遊動化で動いていたため、たまたま出会った障がいのある方がおられる家を何度もお手伝いさせていただきました。一方、秩序化の団体には毎日多くのボランティアの方々が来られるので、たくさんの件数に対応することができます。数については秩序化が勝りますが、どちらが被災者の方々にとって役に立ったのかと問われたら、秩序化も遊動化もさほど差はないのではないかと思うのです。

私は遊動化のほうを好みますが、世の中は秩序がないとうまく回っていかないこともありますので、どこかで折り合いをつける必要があります。初めて災害ボランティアに取り組む人にとっては活動そのものの敷居が高いため、秩序化から体験してみると良いのではないでしょうか。満足したならそれも良いですし、被災者の助けになっているか分かりづらいと感じたなら、遊動化のほうも体験してみると良いでしょう。

大事なのは、秩序化と遊動化、それぞれの人たちがお互いの活動を尊重し合うことだと思います。

近年は、災害が立て続けに全国で起こっているため、活動内容を省みる間もないまま、皆で次の災害支援へと動いています。もしこれから災害が多発する時代になるのであれば、機会を活かし、秩序化と遊動化が集まって話し合う場を持つのが良いと思います。ゆっくり、それぞれの地域に合った方法を模索していく良いチャンスになるのではないかと思います。

SDGsと災害ボランティアの関係

SDGsと災害は密接に関係しています。ただし、17のゴールのどれか一つではなく、全部に関わっていると考えます。特に「誰一人取り残さない」という基本コンセプトが、最も災害ボランティアに合っていると思います。そのコンセプトを元に各ゴールをどのように実現させるかを考えたいと思います。

熊本地震で設置された災害ボランティアセンター
(写真提供:大阪大学大学院 渥美公秀教授)

安全な水の供給やジェンダー平等など、まだ目指しているところに至っていない状態は、いずれも街が被災した後の状態と同じであると言えます。例えば、ある街できれいな水が必要になったなら、世界の技術者たちは水をきれいにする装置を開発するでしょう。しかしその装置が高価であれば貧しい家には設置できません。これでは「誰一人取り残さない」の考えに反してしまいます。そんなとき、災害ボランティアは給水車からきれいな水をバケツに汲んで各家庭へと運びます。災害ボランティアは、このような視点を与えてくれる点で、SDGsのゴール達成の一助となるように思います。

もしSDGsを意識した上で災害ボランティア活動を行うのであれば、「人」に焦点を当て、いま目の前にいる人が「被災した人」ではなく、「被災しているときもある人」と思うことが大事だと思います。高齢者、障がいのある方などの属性に目をつけるのではなく、いまこのときに、この人は何に困っているのかを一緒に探していきます。

例えば、老眼の高齢者が被災によってメガネが壊れてしまい、不自由な思いをしているのを見かけたら、視覚に困りごとのある方と捉えます。他に、視覚的に障がいがある人も視覚に困りごとのある方です。こうして「この人は高齢者」、「この人は障害者」というカテゴリーに分けて考えるのではなく、「視覚に困りごとがある人」といったように困りごとに注目します。そうすれは災害時に何らかの文書で重要な情報を確認する必要があったときに、読みにくい場合にも、両者に対し「この文章、読み上げましょうか」などと適切な解決策を提案することができるのではないでしょうか。困りごとに注目したからこそ、メガネを壊してしまった高齢者にも必要な情報がきちんと伝わり、この方を取り残さず済みました。

またボランティア活動をしていると、「自分はこんなに人に優しくできる一面があったのか」と気付くこともあり、もう一人の自分を見つけるきっかけにもなるのではないかと思っています。そうすると、ビジネスにも良い影響が出るでしょう。1人につき2人分の視点を持っている人が5人で会議すれば、10人で話し合うのと同じになりますし、アイデアが出やすくなり、多様性も生まれます。ボランティアに参加すれば直接、売上や業績につながるというわけではありませんが、日頃から意義のある行動を模索している方には、災害ボランティアをぜひお薦めしたいと思います。

日頃のご近所付き合いが最大の防災活動であり、持続可能なまちづくりにつながる

災害に強いまちづくりを考えた場合、防災意識を高めたり、目標を立てて何かに取り組んだりすることを思いつきますが、それは必ずしも持続可能ではないと考えています。

これまで防災意識が高かった人のほうが災害で助かった率が高いといった検証はされていませんし、実際、震災のような大規模災害が起きたときに、防災意識が低くても助かった人はいます。ですので、できそうにないことを概念的にやるよりも、できそうなことに興味を失わずにやり続けるほうが持続可能といえるのではないでしょうか。

以前、阪神・淡路大震災の被災者の声をアンケートで集めて「地震イツモノート」という本を書きましたが、その中の一つに「毎日挨拶している。これが私の防災でした」という印象的な言葉があります。震災時、一人暮らしのおばあさんが一人で生き埋めになってしまったのですが、普段から近所に挨拶していたので、震災後「あのおばあさん、どこ行った?」と近所の人が探してくれて、助かったのです。

防災イベントを開催するときには、防災意識が高まっているかということばかりに注目せず、地域の人たちが顔を見せ合い、名前を知ったりして互いに存在を確認し合うことを大切に思いながらイベントを進めていくと良いのではないでしょうか。

私も犬の散歩のときには、近所の人に会ったときにできるだけ挨拶するなど、できることから実践しています。

先に防災があるのではなく、先にまちづくりをすることが大切だと思います。まちづくりをしているところに、防災の要素を少し加えるという方法が良いのではないかと私は考えています。

編集後記

災害ボランティア活動を学問の視点から見ることで、さまざまな見方が生まれることに新鮮味を感じました。また同時に新しい生き方の選択肢を示すことや、多様な視点でものごとを見られるようになることなど、個人としての意義も大きいものであることを知り、さらに興味を持ちました。防災ではなく、まずはまちづくりから始めるという視点は、災害を体験されたからこそ得られた、次世代に活かせる素晴らしい知見であると感じました。

ライター石原亜香利

多様なメディアでトレンドやビジネスパーソンに役立つテーマで執筆。特に専門家への取材記事を得意とする。BtoBビジネス向けの企業と顧客のコミュニケーションをつなぐライティングも行う。「読み手にわかりやすく伝える」ことがモットー。