海外の最新食トレンド3選
~日本企業がトレンドを海外マーケティングに活かす方法とは?~
- 株式会社TNC 代表取締役社長小祝 誉士夫氏 (こいわい よしお)
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大学卒業後、5年間のインドネシア勤務を経て、2004年から株式会社TNCの創業メンバーとしてマーケティング業界に従事。2008年に同社の代表取締役社長に就任。「ライフスタイル・リサーチャー®」を主軸とした海外リサーチ、マーケティング業務のプロデューサーとして現在に至る。海外コンセプトの商品開発、海外トレンド視点の新規事業開発、海外市場におけるマーケティング戦略業務などの実績多数。共著に『アフターコロナのニュービジネス大全 ~新しい生活様式×世界15か国の先進事例~』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
今回は、海外の最新トレンド情報を企業などに提供しながら国内外のマーケティングや商品開発をサポートする事業を手掛ける株式会社TNCの代表取締役社長 小祝誉士夫氏に、海外で今、広がっている食の最新トレンドや、日本の食品メーカーなどが海外情報を効果的に活かすアイデアについてお話をお伺いしました。
目次
「海外にヒントあり。海外に市場あり。」を掲げ日本企業をサポート
当社は一貫して、海外と日本の企業や自治体をつなげる活動を行っています。
基盤になっているのは「ライフスタイル・リサーチャー®」という事業です。海外70ヶ国、100地域に長期在住している約600人の日本人女性にリサーチャーとして活動していただいており、そのネットワークと連携しながら、日本市場でまだあまり知られていないような海外の最新情報を提供しています。
ライフスタイル・リサーチャー(写真提供:株式会社TNC 小祝氏)
主に日本の企業や自治体に対して、海外の最新情報やトレンドをもとに海外マーケティング戦略のサポートをしながら新しい価値創りや課題解決を行っています。グローバル視点を大事にしており、「海外にヒントあり。海外に市場あり。」を掲げ、日本を元気にするというのが当社のビジョンです。
2022年には九州・福岡に初めてのローカル拠点を設け、これまでの大企業への支援をメインとした「日本から海外」という視点だけでなく、「日本の地方都市から海外」という事業を進めています。スタートアップ企業や中小企業、そして農業や水産業といった一次産業の方々を支援しています。今後はさらに「ローカル to グローバル」を加速させていきたいと考えています。
異文化との「ギャップ」が価値であり、ビジネスチャンス
私が海外に興味を持ち始めたのは、大学卒業後にインドネシアで5年間滞在した経験がきっかけでした。インドネシアはイスラム教の方が大半を占めており、お酒も飲まず、豚肉も食べず、断食の日もあるなど、無宗教といわれる日本とはまったく異なるライフスタイルや価値観と出会い、大きなギャップを感じたのです。
インドネシアの方々からすれば当たり前のことでも、日本人にとっては新鮮味を帯びて映ります。逆も然りで、日本人にとっては豆腐や味噌などは当たり前の存在ですが、インドネシアやその他の海外の方々から見ると新規性があり、豆腐はプラントベース、味噌はファーメンテッド(発酵)食品の文脈など、トレンドフードとして語られます。
同じものでも、グローバル視点で見ると違った見え方になる。その日本とのギャップに価値があると気付きました。そして、その価値はビジネスチャンスにもつながります。
海外向けに展開する際に「これはグローバルで通用するのか?」と不安に思うことも多いですが、海外から見れば、トレンドや求められていることだということも大いにありうるのです。
帰国後、インドネシアだけでなく、世界中の国々とネットワークを築きながらその価値を提供していきたいと考え、事業構想を練りました。
現在は、ただ日本の企業に海外情報を伝えるだけではなく、いかにそれを日本人の食生活になじませていくか、どうすれば受け入れられやすい形にしていけるかといったところまでご提案しています。
食を対象としているのは、もともと食べることが好きということもありますが、何より、食べるという行為はライフスタイルや人生の基本であり、毎日行うもので、どの地域でも興味を持ってもらいやすいテーマだからです。身近であるがゆえに、文化やサスティナビリティを考える入口になりやすい点も魅力に感じています。
今注目している海外の最新食トレンド3選
昨今の海外の最新トレンドの潮流として注目しているのは「1.脱プラスチック」「2.オルタナティブ食」「3.新しい魚食」の3つです。
1.脱プラスチック
脱プラスチックは特にヨーロッパで進んでいると感じています。例えばスーパーマーケットの野菜や果物などの約半分はプラスチック系から紙や木の包装に変わっていたり、量り売りになっていたりします。厳しい法的規制が背景にあることもあり、日本よりも進んでいることが一目で分かります。
そして紙のパッケージ一つを取ってもデザインが凝っており、エスプリがきいているのです。その「サスティナブル+クリエイティブ」といったプラスアルファの部分は、日本が学ぶべきところではないかと思います。
2.オルタナティブ食
プラントベースやグルテンフリー、砂糖を使わず他の甘味料を利用するといった、いわゆる代替フードです。欧米では非常に強いメッセージ性を持って実践されています。例えばグルテンフリーとして小麦粉の代わりに野菜や豆類を使ったピザ生地や、糖質制限を目的としたカリフラワー使用のお米状の食品など実に面白い商品が生まれています。その背景には、フードテックと呼ばれる食品加工技術の急速な進化や発展があります。
3.新しい魚食
日本の寿司文化が海外にも広がっていることはご存知かと思いますが、日本だけでなく、ハワイの伝統料理であるポケや、ノルウェーのサバやサーモンも含めた魚食文化が今、世界中でトレンドになっています。主な背景として、肉に代わるヘルシーフードとして注目されていることが挙げられます。
ポケは北米西海岸に広がり、ヨーロッパに飛び火して今、ブームになっています。ヨーロッパでは野菜やスパイスをふんだんに使い、色合いもカラフルにアレンジされ、独自の手法で食されています。
先日はニューヨークのマンハッタンを訪問しましたが、今、大人気の「WEGMANS(ウェグマンズ)」というスーパーマーケットに行ったところ、店舗入口の正面にサラダなどヘルシーミールと併設した大きな寿司売り場がありました。そして、鮮魚売り場には日本の魚屋がテナントとして入っていたり、ブリをスパイスと野菜でグリルして食べるミールセットの販売やマグロの解体ショーが行われたりするなど、日本発の魚食スタイルは想像以上にトレンドとなっています。
コロナ禍により生じた「ローカル化」「コミュニティ化」
世界の食トレンドをコロナ前後で比較してみると、ローカルやコミュニティからの支持が求められるようになったと感じています。例えば、地元近隣の農場などから直接届けることを謳っている売り場が目立つようになりました。コロナ禍で遠方への行動制限が入ったことで、自給自足や近所のコミュニティの重要性に気付いたことが背景ではないでしょうか。
アフターコロナにおいても地元の生産者や食品メーカーを自分たちで守っていこうという意識が地域住民の中で根強く残っています。
海外の食トレンドを日本企業に紹介する意義
海外の食トレンドを日本企業に紹介する意義としては、大きく二つのことがあります。
一つは、食のマーケットが飽和状態にある日本においては、常に新しい商品開発やプロモーションのアイデアが求められること。もう一つは、国内の市場環境やプロダクトをグローバルスタンダードに近づけることです。
SDGsにも関係するサスティナビリティやダイバーシティ&インクルージョン、ワークスタイルなど世界的な潮流がある中、日本はまだグローバルスタンダードに追いついていないことが多くあります。そのギャップを埋めていくことが大事だと考えています。
ノードソンの食品コーティングソリューションを日本の食産業に活かすアイデア
ここでノードソンの食品コーティングソリューションを日本の食産業の発展に活かしていくアイデアとして二つ、技術的に実現可能かはわかりませんが、ご提案したいと思います。
一つは、サスティナビリティをお菓子などの食品そのものを通じて伝えること。一般的にはパッケージの脱プラなどで伝えるのが定番になっていますが、食品そのものに何かを施して伝えるということは未開拓だと思います。
お菓子の表面にチョコレートなどをコーティングする際に「塗着効率が高いコーティング手法なので材料の飛散が少なく、材料ロス=食品ロスが削減されている」といったことが写真やキャッチコピーなどで生活者に伝えられれば、サスティナビリティを感じてもらえるだけでなく、企業価値向上にもつながるのではないでしょうか。
もう一つは、精密なコーティング技術を用いて文字やイラストなどを駆使して食品にメッセージを施すことで、新たな付加価値となるのではないかということです。
例えば、生活者がデジタルで好きなメッセージやモチーフ(柄)を入力し、IoTなどを利用してそれらが食品にプリントされるなど。パーソナライズされることで、さらにコミュニケーション媒体としての機能が加わり、食品としての価値が向上するのではないでしょうか。
海外トレンド情報を日本企業が活用するときのポイント
海外のトレンド情報を活用するときに、ぜひ意識していただきたいのが「マクロとミクロの複眼的な視点を持つ」ことです。
従来、日本で食トレンドというと、ただ「おいしい」「映える」といった点で語られることが多くありましたが、ここ5年ほどで大きく変化し、食の潮流は社会課題と結びつけて語られることが多くなってきたように思います。
例えば、プラントベースフードが広がっている背景として、ヴィーガンや健康志向の方が増えていることの他に、人口爆発により将来的にタンパク源の奪い合いになり、動物性たんぱく質が不足する危機感があると考えられています。
このような社会的な背景は、これまで食品開発やマーケティングの分野ではあまり意識されてきませんでしたが、昨今は意識しなければトレンドになり得ず、支持もされないといった状況になってきています。個人の嗜好性に合わせパーソナライズしていくミクロの視点と共に、社会全体の課題や地球全体が向かっていくマクロの視点も合わせて、複眼的に見ていかなければならない時代ではないでしょうか。
編集後記
海外の食トレンド情報は、ギャップがあればあるほどワクワクするもので、新しい可能性を感じるものです。それをビジネスにうまく活かす視点やアイデアが、とても大事であると実感しました。海外情報がどんどん入ってくることで、さまざまな視点で物事を見られるようになり、日本の食産業の発展とグローバル化が進んでいくことを望みます。
- ライター石原亜香利
多様なメディアでトレンドやビジネスパーソンに役立つテーマで執筆。特に専門家への取材記事を得意とする。BtoBビジネス向けの企業と顧客のコミュニケーションをつなぐライティングも行う。「読み手にわかりやすく伝える」ことがモットー。